お前誰だよ
「なんだなんだ!?」
「あっちのテントから爆発音みたいなのがしたぞ!?」
衝撃音と光に驚いた周囲の生徒たちがぞろぞろと集まり始め、騒動が一気に周囲へ広がっていく。
そんな野次馬たちの視線とざわめきの中、トパーズは素早く立ち上がると、毅然とした態度で周囲に聞こえるような大声を張り上げた。
「だから言ったんですわ!! ルビー! 魔法石の量はしっかりと測りなさいと!!」
「は?? へ? な、なんだよ!? 俺が何したってんだよ!?」
突如全責任を押し付けられたルビーが、目を丸くしてパニックになる。
「みなさま、お騒がせ致しましたわ!……さっ、直で睡眠魔法を喰らってしまいましたサファイアを医務室へ連れて行きますわよ! さぁ、早くルビーが支えなさいな!」
(え……なに? なんなの??)
あまりに鮮やかすぎるトパーズの誤魔化しと状況判断に、桃が呆然としていると
「さぁ、早くいらっしゃいな!! ルビー!! ローズ!!!」
びくっ!!
「は! はいっ!……っ!」
トパーズの鋭い一声に、桃は思わず背筋をピンと伸ばして返事をした。
「あらーまた君たちかー。と、インペリアル様これはどうも。ローズくん1ヶ月ぶりくらいか? 体調はどうだい?」
医務室の扉を開けると、独特のひょうひょうとした声が出迎えた。白衣を着た医務官が、カルテから目を離してこちらを振り向く。
「私はいいんです! サファイアが!!」
桃は自分への気遣いを遮り、ルビーに支えられてぐったりしているサファイアを指さして必死に訴えた。
「内密にしといてくださいね? 私が失敗したなんて恥ずかしくて言えませんわ。サファイアは私の魔力探知と魔力の暴走を直でくらってしまい、気を失ってしまいましたの」
トパーズはいかにも「自分の不手際」であるかのように少し困ったような表情をつくってみせる。完璧な演技力だ。
「へえ、直で喰らったにしては体に傷も何もないねぇ。さすがインペリアル様、防御魔法もお早い事」
医務官はニヤリと嫌味っぽい笑みを浮かべ、ベッドを指さした。
(……相変わらず嫌味ったらしくて嫌いですわ、この医務官……)
トパーズは心の中で毒づきつつも、隙のない優雅な立ち振る舞いのまま小さく息を吐く。
ルビーがサファイアを静かにベッドへ横たえさせると、医務官はのんびりとした手つきで診察を始めた。
「はいはい、ちょちょいのちょいっと。まぁパッとしか見てないけど全然命に別状なさそうだしすぐ起きるんじゃないかな? この間のローズくんと比べたら比較にもならんね。起きたら帰ってねー」
ひょうひょうとした調子でそう言い放つと、医務官は手をぶらぶらと振って医務室を出て行った。
「あのクソ医者め! クビにしますわよ!!!」
トパーズは去っていく医医の背中に向かって、すっと目を細めて怒りを露わにする。
「サファイア、本当に起きるのかな……大丈夫かな……」
ベッドで目を閉じているサファイアの顔を覗き込みながら、桃は心配そうに手をキュッと握りしめた。
「くそ……またこのパターンかよっ! ローズもサファイアも、どうして俺の前でこうなるんだよ!!!」
自分の無力さに腹を立てるように、ルビーが悔しそうに拳を固めて叫ぶ。
「うるさい……お前の声で余計クラクラするんだ……静かにしてくれ……」
「っ!?」
ベッドの上から、少し掠れた、しかし聞き覚えのある冷静な声が聞こえた。
ゆっくりと瞼が開かれ、眼鏡のないサファイアの瞳が、自分を覗き込む3人の顔を捉える。
「サファイア……! 良かった、目が覚めた……!」
「お前っ……! 無事だったのかよ!!」
「まったく、人騒がせな男ですわね……」
サファイアが体を起こそうとすると、頭を押さえて眉をひそめた。
「茜も琥珀も大袈裟すぎだろ……ローズだって泣くほどのこと俺は言ってないぞ……?」
「お前誰だよ……?」
事態についていけず、ルビーが呆然声も出ない。
(……目の前のサファイアは、今なんて言いましたの……? 私を『琥珀』、ルビーを『茜』と呼んだ……?)
トパーズ——は息を呑み、絶句した。
あの列車からの謎の衝撃波——それを受けて目覚めた目の前の男は、まさか——
「蒼!!!!」
混乱する一同を余所に、桃は弾かれたようにベッドへ駆け寄ると、サファイア——蒼に勢いよく抱きついた。
「なんだよローズ、大きな声出さなくても聞こえてるって……」
苦笑いしながら桃の背中をポンポンと叩く蒼。だが、桃は涙目で必死に首を振った。
「違うよ! ローズじゃない! 桃だよ、私だよ!!!」
「なっ……!? か、帰ってきたのか!?!?」
驚きで目を丸くする蒼。
けれど——
「……残念ながら、違いますわ」
トパーズは静かに、そして重々しく告げた。
「なんなんだよ……サファイアのやつ、なんで急にそんな名前で呼ぶんだよ……!?」
突然自分を『茜』と呼ばれ、戸惑いを隠せないルビー。




