この先どうしたいんだ?
さっきまでの緊迫感が嘘のように、ルビーはケラケラと明るい笑い声を響かせた。
「あはは、確かにあいつらの格好すごかったもんな! アクション映画の悪役じゃねえんだからさぁ!」
「もう、ルビーそんなに大声出して笑わなくても……。でも、確かに桃の観察眼は変なところで冴えてるよね」
サファイアも目を細めてクスクスと笑う。
ふたりがこうして自分を置いて逃げずに一緒に走ってくれたこと、そしてこうして一緒に笑い合えることに、桃の胸の奥がじんわりと温かくなる。
茜と蒼は……もうここにはいない。でも——。
元の世界の記憶を抱える寂しさが、二人の明るさで少しだけ溶けていくのを桃は感じていた。
だが、しばらく腹を抱えて笑ったあと、ルビーはふっと息を整えて、どこか不思議そうに小首をかしげた。
「にしてもさ、桃ってたまに変なとこ現実的だよな。……なあ、本当にさっき言ってたみたいに、異世界から転生してきたんだとしてさ」
能天気なルビーは、特に深読みすることもなく、ただ純粋な疑問として軽いノリでぽんと聞いてくる。
「お前、この先どうしたいんだ?」
「ルビー、お前なぁ……何も考えずにデリカシーのないこと言うもんじゃないよ……!」
サファイアが慌ててルビーの肩を掴み、制止するように間に割り込んできた。眼鏡の奥の瞳でルビーを注意しながら、すぐに心配そうな顔で桃の方へと振り返る。
「大丈夫かい、桃? ルビーは本当に何も考えずに思ったことを口にしてるだけだからね。答えたくなければ言わなくていいんだよ」
「えー? だって、普通に気にならない? これからどうするのかなーって思ってさ!」
悪びれもせずケラリと笑うルビーと、やれやれと額を押さえるサファイア。
ルビーの「この先どうしたい?」というストレートな一言は、何も考えていない能天気さだからこそ、桃のごまかしようのない本質にぐさりと突き刺さった。
どうしたい、か……。
茜と蒼はいないけれど、こうして良くしてくれる二人が目の前にいてくれる嬉しさと、自分のこれからの生き方に問いかけられた重み。
「帰る方法、あるのかなぁ……」
ぽつりと呟いた桃の声は小さかった。
ルビーの何気ない問いかけに弱音が、不意に口からこぼれ落ちてしまったのだ。
桃の小さな呟きを聞き逃さなかったルビーは、一瞬目を丸くした次の瞬間——ニッと八重歯をのぞかせて破顔した。
「んじゃ探そうぜ!」
「……えっ?」
あまりにもあっけらかんとした、拍子抜けするほどの即答。
桃とサファイアが呆然とする中で、ルビーは腰に手を当てて胸を張った。
「なんだよ! 帰る方法があるかどうか分からないなら、一緒に探せばいいだけの話だろ! この広い学園か世界探せば、そういう魔法とか怪しい古文書くらいあるって!」
「ちょっとルビー、簡単に言うなよ! 異世界への行き来なんて、もし本当だとしてもそんな簡単な話じゃないんだから……!」
サファイアが焦ってルビーを嗜めようとするが、ルビーは「やってみなきゃ分かんねーじゃん!」とケラケラ笑いながら、桃の肩をポンと力強く叩いた。
「とにかく! 悩んでじっとしてるより、動いた方が絶対に面白いって! な、桃!」
悩んでいたのがバカバカしくなるくらい、どこまでもまっすぐで能天気なその笑顔。
帰る方法を探す……。
「…くっ……あははは!ルビーってバカだとか言われない?でもありがとう!」
「はぁ?バカとはなんだよバカとは」
ルビーが桃の頭をわしゃわしゃと揉みくちゃにするのであった。




