ありがとう
トパーズの部屋に無事潜入を果たした四人は、小さなテーブルを囲むように腰を下ろしていた。
トパーズと桃がそれぞれ一人がけのソファーに深々と身体を預け、向かい側の長いソファーには、まだ少し落ち着かない様子のルビーとサファイアが並んで座っている。
テーブルの中央に置かれているのは、真鍮のギアや研磨された金属の爪がむき出しになった、装飾のないオルゴールだ。
「……剥き出しのままのオルゴールになっちゃったね、間に合わなくてごめんね」
桃が手元にある金属の塊を愛おしそうに見つめながら、少し申し訳なさそうにぽつりと溢した。
「なんで桃が謝るんだよ、オレたちの力不足だ!」
ルビーが長ソファーから身を乗り出すようにして、即座に返す。
「むしろ、たった二週間でよくここまで完成させたと褒めるべきだと思うぞ」
隣でサファイアが眼鏡の位置を指で直しながら静かに続き、淡々と、けれど確かな誇りを込めてそう付け加えた。
「そうですわ。綺麗な装飾まで付けたかったのですが、間に合わなくてごめんなさい……」
トパーズもソファーの上で小さく手を組み、申し訳なさそうに目を伏せながら桃に同意するように呟いた。
「桃はさ! 謝りすぎなんだって!! もっと自信持て!」
ルビーは背もたれにドカンと深く寄りかかりながら、力強く声を張り上げる。
「オルゴール作りたいって言ってくれたのは桃じゃん。僕は楽しかったよ、授業もサボれたし」
サファイアがふっと口元を緩めてそう呟くと、すかさずトパーズが「それは私の功績ではありませんか??」と少し不満そうに、けれどお茶目につっこんだ。
「「「あはは……!」」」
狭い部屋の中に、四人の楽しげな笑い声が優しく響き渡る。
……そして、ふっと笑い声が収まると、部屋の中に静かな沈黙が訪れた。
明日、新月がやってくる。
この穏やかで愛おしい時間が、もうすぐ終わってしまうことを誰もが静かに実感していた。
桃はゆっくりと一人掛けのソファーから立ち上がった。
そして、ルビーとサファイアが並んで座っている長ソファーの真ん中へと歩み寄り、当然のようにふたりの隙間にそっと腰を下ろした。
「「「なっ!?」」」
不意をつかれた三人――顔を真っ赤にして固まるルビーとサファイア、そして驚いて目を見開くトパーズの声が、見事に見事にハモった。
左右から伝わる男子二人の熱気に包まれながら、桃は恥ずかしそうにぎゅっと膝の上のスカートを握りしめ、ゆっくりと俯いた。
「……ありがとう。最初から最後まで、ふたりにずっと助けてもらったね」
小さな声で紡がれた感謝の言葉に、二人も、そしてトパーズも、息を呑んで桃の横顔を見つめていた。
桃は俯いたまま、少しだけ顔を上げてトパーズの方を見つめた。
「トパーズも、最初は失礼な事しちゃったのに、こんなに私のために動いてくれてありがとう。本当は魔法科の子達から守ってくれてたでしょ? 知ってたよ」
「……!」
トパーズは一瞬驚いたように大きく目を丸くし、それからどこか愛おしそうに、降参したように優しく微笑んだ。
「ふふ、やはり桃には敵わないのですね」
トパーズもゆっくりと立ち上がると、迷いなく長ソファーの方へと歩み寄った。そして、ルビーと桃の間に割り込むようにして、そっと腰を下ろした。
「あっ……バッカ、狭いだろ……っ!」
いきなり隣に座ってきたトパーズの接近に、ルビーは顔をこれ以上ないほど真っ赤にして照れくさそうに声を張り上げる。
「ふふ、いいではないですか、最後なのですから」
トパーズはくすくすと上品に笑いながら、悪びれもせずにぎゅっと身を寄せる。
長ソファーの上で互いの体温を感じながら、ぎゅうぎゅうに肩を寄せ合う四人。
サファイアも呆れたように、けれど心の底から愛おしそうに眼鏡の奥の目を細めていた。
テーブルの上では、飾り気のない無骨なオルゴールが、四人の縮まった距離と同じように温かく澄んだ旋律を、いつまでも静かに奏で続けている。
やがてオルゴールのゼンマイがゆっくりと落ち、最後のひとつぶの音が静かに部屋へ溶けて消えていった。
連日の作業の疲れと、緊張から解き放たれた安心感からか、一人、また一人とまぶたが重くなっていく。
桃がサファイアの肩にこてんと頭を預けると、トパーズもまた、少し照れたようにルビーの肩にそっと寄しかかった。
文句を言おうとしたルビーも、隣から伝わるぬくもりと静かな寝息に気圧され、言いかけた言葉を飲み込んでそっと目を閉じる。
サファイアもずれた眼鏡を外してテーブルに置くと、そっと深呼吸をして意識を穏やかな闇へと委ねた。
静まり返ったトパーズの部屋。
手を取り合うように肩を寄せ合ったまま眠る四人の表情には、明日の新月への不安はなく、ただ穏やかで温かな微笑みが浮かんでいた。




