すごく暗くて怖かった
なぜあの時止められなかったのか、先に子どもに気がつかなかったのか、何故あなたが犠牲にならなけらばならなかったのかずっと後悔している。
トパーズの言葉に、テントの中の空気がピリリと引き締まった。
「もしかして……桃がこちらに来た日も、もしかしたら新月だったりしません事?」
トパーズはそう言いながら、ハッとした表情で桃、ルビー、そしてサファイアの顔を順番に見渡した。
「お二人は……思い出せますか?」
サファイアは眼鏡の奥の目を伏せ、記憶を手繰り寄せるように静かに語り始めた。
「あの時……僕たちは医務室を変わりばんこに通ってたんだ」
テントの中にサファイアの少し震える声が響く。ルビーも黙って拳を握りしめ、過去の光景を思い浮かべているようだった。
「月のない日だったって覚えてるよ。すごく暗くて……怖かったんだ。このままローズが死んでしまうんじゃないかって思ったら……」
サファイアの言葉に、ルビーが低く重い声で言葉を継ぐ。
「……ああ。あいつが事故に遭って運び込まれた日の夜だろ。外は真っ暗で、空を見上げても月なんて影も形もなかった。……間違いない、あの夜は『新月』だった」
ふたりの証言を聞き、トパーズは目を見開いた。
「やはり……! 桃がこちらに飛ばされてきたあの日もローズと入れ替わったのもローズが事故に遭われたあの日も、どちらも『新月』の夜……!」
「ってことは……!」
桃がかぎ針を胸に抱きしめながら息をのむ。
「ええ。この列車と空間の歪みは、『昼の月』が出ている時に正しく観測・解析ができ、そして『新月』の瞬間に世界を繋ぐ扉が開く……そういう仕掛けになっている可能性が極めて高いですわ!」
トパーズの視線が、期待を込めて桃へと注がれる。
「桃の時は覚えていますか? 新月でしたか???」
問いかけられた桃は、うーんと眉を寄せて思い出そうと頭をひねったが、やがて申し訳なさそうに肩をすくめた。
「ごめん……実は全く覚えてない……。あの時、すごく曇ってたんだ……」
「曇り……ですの?」
トパーズが首をかしげると、桃は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「うん。ドブ川の中だったしね、月どころか星すら全然見えなかったんだよね……」
「そっか……まあ、あんな大変な時に空の月なんていちいち覚えてねえよな!」
ルビーが桃の肩をポンと叩いて笑う。
「だが、これでピースは繋がったな」
サファイアが思考を巡らせるように顎に手を当てた。
「ローズが事故に遭ったあの日が『新月』で、空が真っ暗だった。そして桃がこちらの世界にやってきたのも同じタイミング……。雲で遮られて見えなかっただけで、桃が来た日も『新月』だったと考えて間違いないはずだ」
「ええ……間違いありませんわ」
トパーズも力強く頷いた。
「新月の夜に空間の歪みを生み出し、その波長と重なるようにして桃のかぎ針がこの世界へ引き寄せられた……。そう考えると、すべて辻褄が合いますの」
桃は胸元で温かく灯る琥珀のかぎ針を、そっと愛おしそうになでた。
「そっか……じゃあ、次の『新月』までのこの1週間が、私たちが動ける最大のチャンスなんだね」
「おう! 昼間は『昼の月』を狙って列車の解析と準備を進めて、新月の夜に勝負をかける……! 完璧な計画じゃねえか!」
テントの中に広がる、確信と決意に満ちた空気。手探りだった調査はついに明確な目標を見定め、4人は新月へのカウントダウンへと踏み出した。




