あと1週間
「おい! 流石に人が集まってきてるぞ! もう魔力探知は一回諦めろ!」
周囲の異変とトパーズの放ったド派手な魔法の光に気づいた生徒たちが、ざわめきながらこちらへ集まり始めていた。ルビーが焦った様子でトパーズの肩を揺さぶる。
「……ええ、十分な収穫でしたわ」
トパーズは満足そうに微かな笑みを浮かべ、ゆっくりと杖を下ろした。その瞳は、確信に満ちあふれている。
「よし、これ以上見つかっちゃ面倒だ。みんな、一旦テントに戻ろう!」
サファイアの手短な合図に頷き、四人は集まりかけた野次馬の視線を振り切るようにして、急ぎ自分たちの作業テントへと駆け込んだ。
テントの幕を閉めると、外の喧騒が嘘のように遠のき、静かな熱気が空間を満たした。
「……はぁ、はぁ……びっくりした。でも、トパーズ、さっき何かすごかったね!?」
桃が胸を押さえながら、いまだ温かさを保っている琥珀のかぎ針を握りしめる。
「ええ……。桃、そのかぎ針をもう一度見せてくださらない?」
トパーズは真剣な眼差しで桃の前にひざまずき、かぎ針と手元のノート、そして先ほど鳴らした『昼の月』のディスクを並べた。
「あの列車の歪んだ魔法陣……そして何より、桃の持つそのかぎ針から発せられる波長……。すべてが『昼の月』の位相で完全に一致しましたのよ」
「マジかよ……! じゃあ、そのかぎ針が列車を動かす……いや、空間の歪みを解く『鍵』だったってことか!?」
ルビーが机をバンと叩いて身を乗り出す。
「おそらくは。夜の間いくら探しても無駄だったのは、鍵孔(空間の歪み)自体が『昼の月』の光でしか浮き上がらない構造になっていたからですわ」
サファイアがメガネの位置を直しながら、深く納得したように息を吐く。
「なるほど……。普通魔力の上がる夜月のタイミングが魔力感知の絶好のタイミングだとばかり思っていたが、ディスクオルゴールの仕組みと同じだ。特定の穴(波長)と回転(時間帯)が合致した時にだけ、正しい音(真実)が鳴り響く……」
手詰まりだった1週間に大きな希望の光が宿る。
トパーズは手元のかぎ針を優しく包み込むように持ち直すと、しみじみとした眼差しで見つめた。
「私が今分かったのは……列車の魔力と、このかぎ針の魔力が『全く同じもの』だったということですわ」
「えっ……かぎ針と列車が……同じ魔力!?」
桃が驚いて目を丸くすると、トパーズは静かに頷く。
「ええ。初めて桃からこのかぎ針を見せてもらった時は、魔力反応なんて微塵もありませんでしたのに……今では、ほらね」
トパーズがかぎ針にそっと魔力をかざすと、琥珀色の透き通った針体が、まるで生き物のように温かな光を放ち、魔力のパルスを周囲に漂わせた。
「すげぇ……! オレ達でもはっきりわかるぞ! なんだか変な魔力だな?」
ルビーが感心したように顔を近づけ、目を輝かせる。
「ええ、これほどの密度でありながら、それでいて哀しい……全く不思議な魔力。そして、どちらからも『悪意』は全く感じられなかったわ」
トパーズは胸を撫で下ろすように、ほっと小さな息を吐いた。
「事故を起こした列車と聞いて、何か危険な呪いや悪意が絡んでいるのではないかとずっと心配しておりましたの。でもこれは誰かを傷つけるためのものではありませんわ。きっと、何か切実な『願い』や『想い』が込められている……」
「琥珀っ…」
桃は自分の胸に手を当て、光り輝くかぎ針を愛おしそうに見つめた。
「『昼の月』の光の下でしか反応しなかった列車の隠蔽。そして、その瞬間に共鳴して光り始めた、桃の持ち物であるかぎ針……。すべてのパズルのピースが、一気に揃い始めましたわね」
サファイアも静かに眼鏡を押し上げ、確信に満ちた笑みを浮かべた。
「新月までのあと1週間……。昼間に月が出ている間に、このかぎ針を使って列車にアプローチすれば、きっと隠された真実へ辿り着けるはず」




