昼の月
「じゃあ、この曲のタイトルは『昼の月』に命名しよう!」
桃は両手をポンと叩いて、青空にぽつんと浮かぶ白い月に微笑みかけた。
「『昼の月』、ですか……。なんだか、詩的で素敵な名前ですわね」
トパーズは少し照れくさそうに頬を緩め、持っていた杖をくるりと回した。
「おう、ぴったりじゃねえか! トパーズの正確な射撃と、俺たちのこのドタバタが全部詰まってるぜ」
ルビーも嬉しそうに頷く。
「名付け親は桃か。……まあ、悪くない響きだ」
サファイアも手回しハンドルから手を離し、満足そうにディスクを見つめた。
「ねえねえ、まだ時間あるでしょ? 人が誰もいないうちに、トパーズの他のすごーい魔法ももっと見せてよ!」
桃はキラキラと目を輝かせ、さらにトパーズの袖を引っ張った。
「ふふ、そこまで言われたら見せないわけにはいきませんわね。――では、次は少し派手にいきますわよ!」
トパーズが優雅に杖を掲げると、周囲の光がふわりと揺らめき、青空の下で色鮮やかな魔法の軌跡が弧を描いた。四人の楽しげな笑い声が、心地よい昼下がりの風に乗って広がっていく。
けれど、その光景を眺めながら――トパーズの胸の奥で、ふと小さな違和感が引っかかった。
「物は試し……ですわね」
トパーズは心の中でそう呟くと、何気ない仕草で杖をそっと握り直した。
さっき桃が『昼の月』と名付けたディスクの穴。そこから見えた青空の月と、手元に広がる光の透過。そのイメージを頭に浮かべながら、いつも夕方に使っていた魔力感知とは“ほんの少し波長を変えて”、遠く離れた列車へと意識を集中させてみる。
――すると、その瞬間。
これまで夕方以降の捜索では「完全な無応答」だったはずの列車の周囲に、ピクビクッと微かな魔力の脈動が波紋のように広がった。
「……えっ……!?」
トパーズの瞳が大きく見開かれる。
昼間の太陽の光と、上空に浮かぶ「昼の月」の位置関係――その特殊な条件下でしか遮蔽が解けないよう組まれていた魔法の痕跡が、まるでディスクの穴と光が重なった時のように、はっきりと彼女の感応領域に浮かび上がってきたのだ。
「トパーズ? どうしたの?」
突然動きを止めたトパーズの様子に気づき、桃が首をかしげて顔を覗き込んでくる。
トパーズは震える息を呑み込み、青空に浮かぶ月と、遠くの小屋を交互に見つめた。
「「トパーズ!これって!!??」」
「みなさん……! すぐに……すぐにあの列車へ戻りますわよ!!」




