見せてほしいな
「っ……ふぅ…」
トパーズは小さく息を吐き出すと、痛むこめかみをそっと指先で押さえた。
いくら優秀な魔法科の生徒とはいえ、高度な魔力感知を集中させたまま一週間も続けるのは、流石に疲労の色を隠せない。
あれ以降、何ひとつ新しい収穫がないという状況も、精神的に重くのしかかっていた。
「おかしいですわ……あれだけの魔法を使ったのですもの。誰の痕跡も残っていないなんて、そんなはずが……」
列車の正面だけでなく、車体全体から車輪の隙間に至るまで徹底的に調べ上げた。それでも残留魔力すら検出されない。焦りと疲弊が、彼女の冷静さを少しずつ削り取っていく。
「ぶつぶつ……何かしらの魔法的痕跡がどこかにあるはずなのに……」
テント内の3人は作業台の上に置かれたオルゴールの櫛へ手を伸ばす。
ポロん、ポロん……
金属片を指先で弾くと、調律の整っていない硬く寂しげな音が部屋に響いた。
作業台の上には、くり抜かれた厚紙のディスクや穴あけ用の工具、試作の爪やスターホイールのパーツなどが乱雑に散らばっている。
一週間もの間、捜索と調査に神経を注ぎ過ぎていたせいもあり、グループ課題であるディスクオルゴールの制作も順調とはお世辞にも言えない状況だった。
食堂の空気は、課題の提出期限が近づくにつれてどこかピリピリとした重苦しさに包まれていた。
あちこちのテーブルから、進捗を巡って激しい口論を始めるグループの声や、半ば諦めたように溜息をつく声が聞こえてくる。その一方で、予想以上に作業が進んで余裕の表情を浮かべている一角もあり、まさに生徒たちの焦りと疲弊が交錯する混沌とした様相を呈していた。
そんな喧嘩腰の喧騒のなか、四人がつくテーブルもまた、どこか沈んだ空気が漂っていた。
トパーズは手元のお皿にほとんど手をつけず、浮かない顔でスープの表面を見つめている。一週間もの間、夕方以降に車庫に通い詰めて魔力感知を続けてきたものの、進展はゼロ。連日の魔力消費による疲労と手詰まり感が、彼女の表情を暗く陰らせていた。
そんな重い雰囲気を吹き飛ばすように、桃がパッと顔を上げて提案した。
「ねえねえ、あしたさ! たまには車庫やテントの中だけじゃなくて、お昼に外でも散歩しようよ!」
急にテンションを上げた桃の言葉に、トパーズが驚いたように目を丸くする。
「お昼に……外を、ですの?」
「うん! いつもトパーズがお昼休みに一人で魔法の特訓してるの、私にも見せてほしいな!」
桃の真っ直ぐで無邪気な瞳に見つめられ、トパーズは毒気を抜かれたように「……特訓、ですか」とぽつりと呟いた。
「いいんじゃねえの? ずっと薄暗い車庫に籠もって作業してたら、頭もおかしくなりそうだしな!」
ルビーが豪快にパンをかじりながら同意した。その手元では、すでにズタズタになりかけた厚紙のディスクと格闘しており、指先をインクで真っ黒にしながら穴の位置を調整しようと躍起になっている。
「……確かに。気晴らしも必要だね。トパーズ、根を詰めすぎるのは効率的ではないよ」
サファイアもまた、固くなったパンを一口かじり、慎重な手つきでオルゴールの金属製の櫛の並びや音高を確認しながら冷静に頷いた。
「二人とも……。わかりましたわ。明日のお昼は、外で少し風に当たりましょう」
二人の不器用な優しさと桃の明るさに背中を押され、トパーズの固くなっていた表情が少しだけ和らいだ。




