ひっどい顔
「あ、おはよう……」
翌朝、目の下に深いクマをつくった桃がふらふらと食堂に現れると、待ち構えていたルビーとサファイアが絶句した。
「うわっっ……!? 大丈夫か!?」
ルビーが目を見開いて叫び、サファイアは眼鏡の位置を直しながら呆れたように桃の顔を覗き込む。
「ひっどい顔して……まったく寝られてないのか?」
すると、桃のすぐ後ろからため息をつきながらトパーズがやってきた。少し疲れた様子で桃の背中を支えている。
「寝ろと言ったのに、全く寝付いてくれないのですわ。明日の列車の調査やオルゴールの構造が気になって頭が冴えてしまったらしくて……」
それを聞いたルビーが、不思議そうに首をかしげた。
「え? 2人って相部屋だったっけ?」
「ふふふ」
トパーズは優雅に胸を張り、当然のように口角を上げた。
「桃の体調管理をするために、一緒のお部屋に移動するのは当然のことですわ!」
「でも管理できてねーじゃん」
ルビーが容赦ない突っ込みを入れると、トパーズは「っく……!」と一瞬言葉を詰まらせた。
「そ、それは……桃の想像力が豊かすぎるのが想定外だっただけでして……!」
「まぁまぁ」とサファイアが苦笑しながら桃の前に温かいスープを差し出す。
朝の食堂も、昨日の夜と同じくらい大きな熱気と活気に包まれていた。各テーブルからはコンテストに向けた議論や、金属を叩く真似をする威勢の良い声が飛び交っている。
だが、桃の頭は重く霞んでいた。温かいスープの湯気をぼんやりと見つめながら、寝不足の脳裏に不安がじわじわと広がっていく。
(……どうしよう。こんな寝不足の頭で、本物の列車を見て……もし何もわからなかったらどうしよう? もし、何の収穫もなかったら……?)
ぐいっ。
突然、両頬を強い力で引っ張られ、桃の口角が無理やり上へと引き上げられた。
「うん、笑ってろよ桃はさ!」
正面でニヤリと不敵に笑うルビーが手を離すと同時に、そのままテーブルのパンをちぎって桃の口へ押し込んでくる。
「んで、とりあえずこれ食え!」
「むぐっ……!?」
モグモグと必死にパンを噛み砕く桃の横で、サファイアが穏やかな、けれどどこか力強い声で言葉を重ねた。
「桃聞いて、みんな同じ気持ちだって」
「でも……! コンテストも列車の調査も、あと1か月しかないんだよ!?」
不安を押し殺しきれずに声を上げた桃に、トパーズが優雅に、自信に満ちた笑みを向けた。
「1か月『も』あるんですわ」
「そうそう。それに僕たちは4人いるんだ、1人で悩むなよ」
ルビーの隣でサファイアが眼鏡のフチを押し上げながら頷き、4人の視線がひとつに重なる。
みんなただの強がりかもしれないでも今の桃には十分すぎるほどの気持ちが上がってくるのだった。




