楽しむ気満々
「明日には列車が来るそうですわ。それまで私たちも、何を作るか考えてみませんか?」
トパーズが楽しそうに目を輝かせながら提案すると、ルビーは思わず素で声を裏返らせた。
「えっ!? 俺たちもやるのかよ!?」
サファイアも驚いたように眉をひそめ、眼鏡のフチを指で押さえながら呆れ顔を向ける。
「トパーズ……君、大会なんてまったく楽しんだりしないって、さっき言ったばかりじゃないですか」
「ふふふ、それはそれ、これはこれですわ」
トパーズは悪戯っぽく微笑み、上品に首をかしげて見せた。
「正直なところを言いますと……4人全員で四六時中あの列車に張り付いて見張っていたところで、かえって目立ちますし、専門的な回路分析などは一度に全員で見ても分からないことがございますでしょう? だから、怪しまれないための『カモフラージュ』兼『休憩がてら』に、クラフトもしようかななんて……ふふふ」
「なんだ、結局本気で楽しむ気満々じゃねぇか!」
ルビーがガックリと肩を落としてツッコミを入れると、桃は思わずクスッと笑ってしまった。
「でも、トパーズの言う通りかも! ずっとピリピリして列車を調べてたら周りの生徒にも怪しまれちゃうし、みんなで何かを作りながら作戦を練るのも良いかもしれないね」
「まあ……『熱心に作品作りに励むチーム』を演じる方が、周りの目を欺くブラフとしては完璧ですね」
サファイアもあきらめたように吐息をつきつつ、口元を緩めた。
「よーし! そうと決まれば、明日列車が届くまでに『俺たちのチームが何を作るか』のアイデアを出し合おうぜ!」
「桃!! この世界に来て、何が一番すごい魔道具だった!?」
ルビーが待ちきれない様子で身を乗り出し、トパーズとサファイアも好奇心に満ちたキラキラとした視線を桃に向ける。
「っ……そんなに見つめられても、パッとは何も浮かばないよ……」
三人の熱い視線に気押されながら、桃は困ったように頭をかいた。
「だって、この世界の魔道具って言われても……蛇口をひねれば水が出る水道と変わらないし、火を付ける道具だってライターと原理は一緒でしょ? あらかじめ道具に魔法を込めておいてくれているから、魔力がない私でも当たり前に使えてありがたいなぁ、くらいで……――あっ」
桃が何かに気づいて言葉を止めた瞬間、三人の目がさらに輝きを増した。
「な、なに!? 桃何か思いついたのか!?」
トパーズは優しく微笑みながらも、ハッとしたように桃の手をそっと包み込んだ。
「ねえ、桃さん。あなたの元の世界には『魔法』という概念そのものがなかったのでしょう? なのに、水道やライターのように……『魔力がなくても誰でも同じように便利に使える仕組み』が、当たり前に存在していた……」
「……あ」
桃は自分の発言の意味にようやく思い至った。
「この世界の魔道具って、使う人が自分で魔力を流し込んだり、属性の適性が必要なものが多いじゃない? でも……あらかじめ完璧に『魔法の効果』が定着されていて、魔力がゼロの人でもボタン一つやダイヤルを回すだけで作動する道具。それって、魔法科の人たちから見たら、実はすごく特殊で高度な構造なんじゃないかなって……」
「――それですわ!!」
トパーズがパッと表情を華やがせ、通信石を握る勢いでパンと手を叩いた。
「素晴らしい発想ですわ、桃! 私たち魔法科の人間は、無意識に『使う側がどう魔力を与えるか』ばかりを考えてしまいがちですの。ですが、『魔力を全く持たない人間でも、誰でも安全に・等しく使える魔道具』……! これこそ、我がインペリアル家が目指すべき『生活を豊かにする魔導創生』の極致ですわ!」
「なるほど……!」
サファイアも深く頷き、手帳を取り出して素早くペンを走らせる。
「『魔力不保持者のための完全ユニバーサル魔道具』……。構造としては、あらかじめ高密度の魔力回路を内部に永久定着させ、物理的なスイッチという『外部刺激』だけで回路を起動・停止させる仕組みですね。これは魔法科と普通科の技術を融合させるテーマとして、コンテストの題材にも完璧です」
「なんだよそれ、めちゃくちゃカッコいいじゃねぇか!」
「ちょっ…!みんなが何言ってるか難しくてわからないよ!!」
慌ててる桃をルビーが大興奮でバンバンと叩く。
「誰でも使える魔道具か! 桃だからこそ思いつく最高のアイデアだな! おい、トパーズ、俺たちのチームはこれで決まりだろ!?」
「ええ、勿論ですわ!」
トパーズは満足そうに胸を張り、桃に向かって極上の笑顔を向けた。
「ふふ、これで『何を作るか』のテーマも決まりましたわね。明日列車が到着したら、さっそく必要な魔導金属と精密工具を調達いたしましょう。……もちろん、本命の調査も忘れませんけれどね?」
三人の尊敬とワクワクに満ちた視線に囲まれ、桃は照れくさそうに頬を染めながらも、自分のアイデアがみんなの役に立ったことに胸をキュッと熱くするのだった。




