オレは茜じゃなくてルビーだからな
「こはくは良いなー天才だし!かわいいし!家も走れるくらい大きいし!私にさんすう教えてくれるくらい優しいし!いいなぁ、私も、こはくみたいになりたいなー」
「ふふ、なら私は桃みたいになりたいわ」
ルビーとサファイアに半ば引きずられるようにして、桃は校舎の奥にある普通科の食堂へとやってきた。
ガヤガヤと賑やかな雑音と、香ばしいランチの匂い。
空いているテーブルの席にぽつんと座らされ、ルビーが温かい飲み物を、サファイアが気休めのようなパンを買ってきてくれた。
「……で? 急に抱きついたりして、一体どうしたんだよ」
対面に座ったルビー——茜にそっくりな真っ直ぐで力強い目をした彼が、心配そうに覗き込んでくる。
その隣では、蒼にそっくりなサファイアが、困ったように目を細めていた。
「言ってみて? 怒らないからさ。なんでいきなりトパーズ様に……ううん、『琥珀』なんて名前で呼んだの?」
桃はポツリポツリと、溢れ出す思いをふたりに打ち明け始めた。
「信じてもらえるかわからないけど私『ローズ』じゃなくて『桃』なの、サファイアそっくりな蒼とルビーそっくりな茜とトパーズ様?とそっくりな琥珀といつも遊んでたの」
桃のティーカップの持つ手が震える。
「いつもみたいにみんなで遊んでたはず…なのに…っ…雨が降って…気がついたらここにいたんだよ………だから、ふたりの顔を見たとき……本当に嬉しくて……っ」
ぼろぼろと涙を流し言葉を詰まらせながら話す。
桃の話を黙って聞いていたルビーは、肘をついて深くため息をつくと、少し意地悪で、どこか寂しそうな目で桃を見つめた。
「なあ、桃」
「……え?」
「お前……俺たちのこと、その『茜』と『蒼』の代わりにしてるわけじゃないよな?」
「っ!?」
不意を突かれて息を呑む桃に、隣のサファイアも困ったように苦笑しながら乗っかる。
「僕も……ちょっと複雑だな。桃が僕たちを頼ってくれるのは嬉しいけど、『誰かの身代わり』として見られてるんだとしたら、やっぱり寂しいよ」
「ち、違うよ……っ! 代わりにしようなんて思ってない………ごめん……ルビーはルビーなんだよね、、サファイアもサファイアだ…っ!」
自分の心を見透かされていて急に自分がちっぽけに思えた。
ルビーはフッと口元を緩めると、乱暴に桃の頭をワシワシと撫で回した。
「ハハッ、冗談だよ。お前が本気でショック受けてんのは分かってんだよ。……でもさ、俺は茜じゃなくて『ルビー』だからな。そこだけは忘れんなよ?」
「僕も『サファイア』として、桃の力になりたいな」
サファイアも優しく微笑みながら、温かいお茶のカップを握らせ直した。
「……あ……そうだよね……トパーズ様が私のこと知らないなんて、当たり前だったんだよ。元の世界で親友だったなんて私の勝手な思い出で……向こうからしたら、ただの頭のおかしい不審者だもんね……っ」
ズズッと鼻をすする桃を見て、ルビーとサファイアは顔を見合わせた。
「……まあ、焦るなって。いきなり抱きつかれたトパーズ様もびっくりしたろうけどさ」
「そうだね。魔法科と普通科では住む世界も違うから、すぐにどうこうできるわけじゃないけれど……焦っちゃ駄目だよ。少なくとも僕たち二人は、ここにいる桃の味方だから」
「そうそう! 雲の上のトパーズ様が無理でも、俺たちがついててやるからさ。……だからもう泣くな、桃」
ふたりの優しさが、冷え切った心にじわじわと温かく染み込んでいく。
そうだ。目の前にいる二人は「茜」と「蒼」じゃない。
ちゃんと自分を見て、心配して、味方でいてくれる「ルビー」と「サファイア」なのだ。
「……二人とも、本当にありがとう……っ」
涙を拭いながら少しだけ冷たくなったお茶を一口飲む。




