だって……琥珀なんだもん……
「ちょ、ちょっと……! 何やってんだよバカ!?」
「す、すみません! すぐに下がらせますのでっ……!」
呆然と立ち尽くす桃の腕を、青ざめた顔のルビーとサファイアが左右から慌てて掴み、強引にその場から引っ張っていった。
魔法科の生徒たちの痛いほどの視線とヒソヒソ声を背中に浴びながら、桃たちは廊下の隅へと連れ出される。
「お前、正気か!? あのお方はトパーズ様だぞ! 魔法科の中でも最高峰の『インペリアル』の血筋で、雲の上の存在だぞ!?」
「僕たち普通科の人間が気安く話しかけたり、いきなり抱きついたりしていい相手じゃないんだからね……っ! 下手したら停学だよ!?」
二人から必死の形相で怒鳴られ、桃はポロポロと涙をこぼした。
悔しさと、ショックと、あまりの悲しさで視界がじんわりと滲んでいく。
「だって……っ、琥珀なんだもん……! 私の知ってる琥珀だったんだもん……うぅ……ッ」
涙目でぐずぐずと訴える桃を見て、ルビーとサファイアは「はあぁぁ……」と深いため息をついて顔を見合わせた。
「だとしてもだ! 相手は覚えてないって言ったんだろ? これ以上関わったら本当にヤバいって……」
(なんなのもう……っ!!)
涙を拭いながら、桃は心の底から叫びたかった。
転生したって知ったときだって、別に勇者になって世界を救いたいとか、魔法で無双したいとか、そんな大層な望みなんて一切なかったのに。
ただ異世界でのんびり暮らして、そこそこ楽がしたかっただけなのに。
なんで数学の円周率にうなされた挙句、大好きな親友に「知らない」なんて言われて泣かなきゃいけないの——!?
理不尽すぎる展開に、桃の異世界生活は最初から波乱に満ちあふれていた。




