完璧な口実
ふぅ…と大きく息を吐きトパーズは懐から通信石を取り出し、指先で魔力を注ぎ込んだ。石が青白く発光し、魔法の通信回線が繋がる。
「――お父様? 私ですわ、トパーズです。急ぎでお話ししたいことが……ええ、学友のために件の列車を至急こちらへ手配していただきたいのです。事故を起こしたあの列車ですわ。そんなに待てません、今すぐです!」
通信の向こうから聞こえる父親の困惑した叱責にも似た声にも怯まず、トパーズはきっぱりと言い放つ。
「『配給』が学園内にあれば良いのですね? わかりましたわ。では――」
トパーズは冷徹なまでの実行力を宿した瞳で一気に畳み掛けた。
「全校規模の『魔導クラフト&創生コンテスト』を開催いたします。これは全生徒の士気を上げるためのイベントですわ。生徒に配給する特注のDIY素材キット、希少な魔導金属、加工用の精密工具セット……そして魔力糸と卓上魔導織り機、その他なんでも積み込んで届けてくださいまし。鮮度と管理が命の素材ばかりですので、今すぐあの特別列車で学園の貨物門まで運んでいただく大義名分になりますわ。……ええ、明日急遽全校集会を開き、その趣旨を説明いたします。よろしくしてね、お父様、ええ、それくらいの時間は待てますわ流石にそこまで子供ではないです。」
通信を終え、トパーズは青い光の消えた通信石をすっと収めた。そして悪びれもせず、にっこりと微笑む。
「列車を早急に呼びましたわ遅くとも3日以内には」
「は……? いやいや待て! 次の配給は半年先だぞ!?」
ルビーが飛び上がって頭を抱える。
「私の親の持つ学園ですもの、わがままを聞いてもらいますわ。……ただ走らせるだけでは来ていただけないと思いましたので、全生徒に配布するための材料を急遽持ってきてもらうことにしましたの。当日になれば学園中が大騒ぎになって、誰もが資材に気を取られますわ」
トパーズの完璧すぎる手回しの早さに、サファイアは呆れつつも静かに眼鏡のフチを押し上げた。
「……なるほど。学園全体を熱狂させて注意を逸らし、その隙に車体を調査する……完璧な口実ですね」
サファイアは一瞬だけ表情を緩めたが、すぐに目元を鋭く引き締めた。
「でもトパーズ。……僕たちが誰一人として、こんな大会を本気で楽しみにしているわけではないということは、念を押すまでもないよね?」
「当然ですわ、サファイア」
トパーズは笑みを消し、凛とした表情で頷いた。
「大会も、資材も、…すべてはあの列車をこの貨物門へ怪しまれずに引き込み、隠された『不自然な魔法』の正体を暴くための手段に過ぎません。目的と手段を見誤るつもりはありませんわ」
「おう、その通りだ」
ルビーも口元を歪めてニヤリと笑う。
「全生徒がお祭り騒ぎに浮かれてる陰で、俺たちはあの列車を徹底的に解剖してやる。待ってろローズ事故の裏にある闇を暴き出す」
「ルビーは本当に解剖しちゃいそうだな、でも今はこの不自然な魔力を調べなきゃいけない」
やれやれと笑うサファイア。
「うふふ、列車は次の本配給まで私たちの手元にいてもらいます、確実にこの魔力の元を見つけ出してやりますわ」




