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魔法のない普通科で。    作者: ワイ
月の鍵と桃
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別の何か

ルビーとサファイアは、トパーズが指し示したバラスト石の上の微かな痕跡へゆっくりと歩み寄った。

二人もしゃがみ込み、お互いに顔を見合わせる。本来なら、普通科で魔力の乏しい自分たちには見えないし感じ取れないはずの微量な残滓。けれど、親友であるローズの残り香のようなその気配を、二人は愛おしそうに、そしてどこか寂しそうに確かめるようにじっと集中して探った。

「……なぁ、サファイア。感じるか?」

ルビーの少し掠れた声に、サファイアは黙って眼鏡の位置を直し、指先を地面へと近づける。

「うん…僕たちのように魔力が乏しい者でも、触れられそうなほどはっきりと……残っているね」

いつも近くにいたローズの温もりのような気配。だが、二人の表情は次第に険しくなっていく。愛おしさの反面、胸の奥をざらりと撫でるような「決定的な異物感」が拭えなかったからだ。

「……でも、変だぞ。これ……本当にローズの魔力なのか?」

ルビーが首を傾げ、違和感を隠せずに呟く。

「あぁ。ローズの魔力は、もっとこう……静かで、控えめなはず。でも、この痕跡には別の何かが混ざっている。まるで……ローズじゃない『別の何か』の力が重なっているような……」

サファイアの言葉に、トパーズもはっと息をのんだ。

ルビーが立ち上がり、線路の敷居——あの事故の瞬間、列車とローズが真っ正面から衝突したまさにその場所を激しく指さした。

「トパーズ、これ……! ちょうど列車と衝突した所に、ローズじゃない『別の何か』を感じるんだ!」

サファイアも青ざめた顔で鋭く目を細め、線路の鉄筋を見つめた。

「列車自体に……何か魔法がかかっていたのか……!?」

二人の言葉に、トパーズは目を見開き、急いで列車が通過した軸線へと視線を走らせた。

「列車に魔法が……? 単なるブレーキの事故や運転操作のミスではなく、意図的に『何か』が仕組まれていたと……!?」

トパーズは思わず息を呑み、杖を握る手に強く力を込めた。その瞳には動揺と激しい怒りの色が入り混じっている。

「この列車を調べましょう!」

トパーズは声が高ぶるのを抑えきれない様子で、線路の奥を見つめた。

「この魔力の痕跡、何かおかしいです! この列車の所有者はインペリアルですわ、私の家に行けば何かわかるかもしれません!」

自分の生家であり、巨大な権力を持つインペリアル家。その名が関わっているとなれば黙ってはいられない様子で今にも駆け出しそうなトパーズに、ルビーが慌ててその肩を掴んだ。

「トパーズ、落ち着け! 卒業するまで何があっても家には帰れないって、入学の時に言ってたぜ!?」

「ですが……!」

「今、お前が実家に無理に帰ったりしたら、どんな面倒なことになるか分かってるだろ!?」

ルビーの必死の制止に、トパーズはぐっと唇を噛み締めた。だが、溢れ出す疑問と焦りを抑えきれず、すぐに視線を線路の先へと向け直す。

「では、次の列車を待ちましょう! 次は!? 次はいつここを通るのですか!?」

「ローズのことは事故だ!! 本当に! トパーズ、落ち着けって!」

ルビーが力任せにトパーズの腕を引っ張り、なだめるように叫ぶ。

普段は常に気高く冷静なトパーズがここまで取り乱す、ルビーはトパーズの肩をしっかりと掴み直し、必死の面持ちで言葉を重ねた。

「ここでローズが助けた子も、たまたま搬入に来た親の仕事を手伝いに来ただけで、線路に足が引っかかったんだ! 誰も悪意があってそこにいたわけじゃない! 誰のせいでもないんだよ! ブレーキの位置も速度も何もおかしなことはなかったって、ここにいた全員の証言だってあるんだ!」

ルビーの叫びのような言葉が、静まり返った貨物門に響き渡る。

興奮で息を荒らげ、今にも次の列車に飛びつきそうな勢いだったトパーズの身体が、ピクリと揺れた。自分の生家である「インペリアル」の名が絡んでいると知り、平静を失っていたトパーズは、ルビーの言葉にハッと息を飲んだ。

そこへ、桃がそっと歩み寄り、トパーズの手を優しく包み込んだ。

「トパーズ、大丈夫だよ……。私もローズと同じだからわかるの。ローズは、誰のことも恨んでないよ」

その温かい手と飾らない言葉に、トパーズの肩からすっと力が抜けた。

トパーズは俯き、ぎゅっと目を閉じると、ゆっくりと深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。

「……申し訳ありませんわ。取り乱してしまいました……」

トパーズは震える声でそう呟くと、桃の手をキュッと握り返した。

「桃ごめんなさい。でも、私は……あなたの優しさに付け込んで、何か危険な事故が揉み消されそうになっているのではないかと、つい……」

静けさを取り戻した門の前で、サファイアが眼鏡のフチを静かに押し上げながら、冷静に言葉を繋いだ。

「あぁ。運行記録や現場の全員の証言通り、列車やブレーキに目立った異常がなかったのは確か。……でも、だからこそ不思議なんだ。物理的な運行に何の異常もなかったはずの現場に、なぜこれほど不自然な『ローズ以外の魔力の痕跡』だけが残されているのか……」

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