無茶は禁物
「ふぁぁー流石にもう眠いから解散にしようぜ、桃も疲れてるだろ?」
「……分かりました。今夜はこれ以上の無茶は禁物ですね」
サファイアは静かに眼鏡の位置を直すと、深々と一礼した。
「何かあればいつでも頼ってください。僕たちも明日、食堂で合流するまでに現場周りの情報を少し洗っておきます」
「おう! 桃、あんまり考え込んで夜更かしすんじゃねぇぞ! じゃあな、トパーズ様、桃を頼んだぜ!」
ルビーは力強く拳を振ると、トパーズ様が唱えた人払いの魔法の光に包まれながら、サファイアと共に静かに301号室をあとにした。
カチャン、とドアが閉まり、部屋の中に心地よい静けさが戻ってくる。
トパーズ様はふうっと小さく息を吐くと、パッと表情を華やがせ、パチリと両手を打ち合わせた。
「さて! 桃様、私人をお部屋にお泊めするの、実は初めてですの! なんだか少しワクワクしてしまいますわ!」
先ほどまでの張り詰めた空気から一転、少女らしい素の笑顔を見せるトパーズ様。彼女は嬉しそうにパタパタと準備を始め、クローゼットから予備の柔らかな毛布とパジャマを取り出してくれた。
「こちらのベッドを使ってくださいな。私はこちらのソファで休みますから」
「えっ、そんな! トパーズ様のお部屋なのに、私がベッドを使うなんて申し訳ないです……!」
「いいえ、お気になさらないで。今夜の桃様は、心も体もたくさん傷ついてお疲れのはずですわ。客人に無理をさせるわけにはいきませんもの」
トパーズ様は優しく微笑むと、桃の手にそっと温かいハーブティーのカップを握らせてくれた。湯気とともに、気持ちを落ち着かせる甘い香りがふわりと立ち上る。
「……今日はいろいろなことがありすぎて、胸がいっぱいになってしまったでしょう。でも、安心してくださいね。ルビー様もサファイア様も、そして私も……絶対に桃様とローズ様を一人にはさせませんから」
ランプのやわらかな光の中で、トパーズ様の温かい言葉がじんわりと心に沁み込んでいく。
「さあ、お茶を飲んだらゆっくり休んでくださいな。明日の朝、授業の準備も現場へ向かうための準備も私が完璧に整えておきますわね」
トパーズ様は桃が寝るまで手を握ってくれていた。




