飛び込んだ
ばしゃん
水がつめたいな
さむいな
これだけは…守らなきゃ
「最後に一つだけ確認しましょう。ローズ様は列車に飛び込んで、今ここには桃様がいらっしゃる……。では桃様ご自身は、こちらへ来られる前のことについて、何か思い当たる節はおありですか?」
トパーズが静かな眼差しで問いかけてきた。その言葉に、ルビーが勢いよく立ち上がって声を張る。
「おいおい! 正しくは『線路で倒れてた子供を助けるために飛び込んだ』だ! ローズの名誉のために言わせてもらうけど、自暴自棄になって飛び込んだんじゃないんだからな!」
「わ、分かっていますわ、ルビー様。ローズ様の勇敢な行動を疑っているわけではありませんのよ」
トパーズがなだめるように手を添える。
二人のやり取りを聞きながら、桃は自分の胸の奥が妙に冷たくなっていくのを感じていた。
飛び込んだ……んだと思う……?
ルビーの言った「飛び込んだ」という言葉が、やけに心に引っかかる。
……ううん、違う。何かが噛み合わない。
列車……? 線路……? 自分の記憶にあるのは——。
頭の奥で、激しい雨の音と、足元をすくう冷たい水の感覚……。
桃が言葉に詰まっていると、ルビーがふと思い出したように顎に手を当てた。
「そういやさ、桃が一番最初に目を覚ました時、『濡れた』とか『冷たい』とか言ってたよな? もしかして桃の前世の死因って、溺死か?」
「ルビー、デリカシーというものを少しは持て」
サファイアが間髪入れずに冷ややかな視線を送ったが、ルビーの言葉は桃の胸に鋭く突き刺さった。
「っ……!」
脳から血の気が引く、濁った水と冷たい雨。激しい恐怖。
「思い出した……! あの時、急な雨が降ってきて、急いで帰ろうとしてたんだ……!」
息が荒くなり、身体の芯から冷えていくような錯覚に襲われる。
「ドブ川にボールを落とした子供がいて……その子が無理に取ろうとして危なかったから、私はっ、その子を上に放り投げて……! 自分だけが、川に落ちたんだ……っ!」
手のひらが、あの時の冷たさと泥の感触を思い出してガタガタと震え出す。
「あの子は……無事だったのかな……? わかんない、でも……っ!」
そして、大切に守ろうと持っていたもの。
「っ……! うそ、待って……。あれ……? 琥珀から借りてたかぎ針も、あの時ドブに……っ……! 寒い、いや、苦しい……! 泥で服が重い、針金もガラスも刺さってる……痛い、痛いよ! っ!」
恐怖と酸欠の記憶が蘇り、桃がその場で崩れそうになった瞬間、
「桃っ!!」
「しっかりしろ、桃……ッ!」
ルビーとサファイアが慌てて駆け寄り、両側から桃をしっかりと支え起こした。サファイアは震える桃の肩を強く抱き締め、ルビーは冷えた桃の手を両手で包み込んで温めようとする。
「おい、呼吸を合わせろ! 大丈夫だ、ここはもうあの川じゃない、トパーズ様の部屋だ……!」
「そうだ、僕たちがついている。もう一人じゃないんだからな……!」
二人の温もりが、恐怖に凍りつきそうになる桃を現実に引き戻してくれる。
「……そうだよ。私、本当に、でき…し……っ」
桃は二人にもたれかかりながら、胸を押さえた。
「はっ…はっ……はぁ…………?」
制服の胸ポケットになにかがある事に気がついた桃、はソレを取り出す。
「琥珀のかぎ針…?どうして?私持ってる…?」
「桃様大丈夫ですかっ?!それは…?ちょっと貸したくださる?!」
トパーズは琥珀のかぎ針に魔力がかかっているか感知の魔法をフワッとかける、しかし何も反応しない。
「このかぎ針に何かあるのかと思いましたが違いましたわね、これは桃様が持っていたもので間違い無いのですか?」
トパーズはキレイな銀細工の施されたかぎ針を持ち見つめる。
「はい、確実に私が向こうで使っていたものです。」
「…もう落ち着いたか?」
背中をさするルビーとかぎ針と桃の顔を交互に見つめるサファイア。




