ローズは
取り戻してみせる、たとえわかってもらえなくても
「じゃあ、ローズは!? ローズはやっぱり……あの場で死んだんですか!?!? 死んじゃったんですか!?」
ポーカーフェイスを保っていたサファイアが、ついに感情を爆発させて立ち上がった。テーブルが大きく揺れ、ティーカップの波紋が激しく広がる。
「おい、サファイア! 取り乱すなよ!!」
ルビーがサファイアの肩を強く掴んで引き戻そうとする。
「ふたりで桃を支えるって、そう決めたろ!? お前の気持ちだって痛いほどわかるけど……探すんだろ!? ローズだって異世界転生してどこかにいるかもしれないって、お前自身が言ってたじゃないかよ!!」
ルビーの必死の言葉に、サファイアは唇を噛み締め、悔しそうに拳を握りしめて肩を震わせた。
その様子を静かに見守っていたトパーズは、取り乱す二人を咎めることもなく、温かく穏やかな声で言葉を紡いだ。
「そうですね……あの日、あの事故の日を境にローズ様と桃様が入れ替わったと仮定しても、よろしいかもしれませんわ」
「え……?」
サファイアがはっと息を呑み、ゆっくりと顔を上げた。
「もし桃様のお心が異世界からこの世界へと渡って来られたのだとすれば……逆もまた然り。ローズ様のお心が、どこか別の場所や時代、あるいは別の世界へ行かれている可能性を否定することは誰にもできませんのよ」
トパーズはそう優しく微笑むと、うつむくサファイアと、桃を庇うように立つルビー、そして呆然とする桃を一人ずつ見つめた。
「ですから、諦める必要などありませんわ。……私たちがこの『転生』の真実を解き明かせば、必ずやローズ様の行方の手がかりにも繋がるはずです」
「ねぇ……ローズの事故って、なに……?」
トパーズの言葉をきっかけに、桃の胸の奥でバラバラだったピースが、急速にひとつへと繋がっていく。
あの日、初めて医務室で目を覚ました時のこと。
心配そうに自分の顔を覗き込んでいたルビーとサファイア。「無茶しやがって」「命があっただけ儲けものだ」と、半泣きで言っていたこと。
人助けのために、列車に飛び込んだ。
「……もしかして。ローズは、あの時に死んじゃって……。私が医務室で目を覚ました時が……『桃』になった瞬間だったの……?」
声が震える。
この体に残っていたかすかな感覚、鏡に映る顔、そして何より「人助けのために無謀なことをしてしまう」という行動の癖。見た目も中身も自分に似すぎていたからこそ、桃は自分がただ「ローズ」という少女として転生したのだと思っていた。
でも——本当は違っていたのだ。
この体には、ローズという一人の少女の、優しくてまっすぐな人生がちゃんと存在していた。
「ごめんねローズ…私、ローズの事、知らなさすぎた……ごめんね、サファイア、ルビー」
ぎゅっと制服の胸元を握りしめる。
自分が彼女の身体を奪ってしまったような罪悪感と、ルビーとサファイアがどれほど彼女を大切に思っていたかという痛みが、桃の胸を強く締め付ける。
そんな桃に気づいたのか、ルビーがそっと視線を下げ、サファイアが静かに呟いた。
「……桃、自分を責めないでくれ。君が悪いわけじゃないことくらい、僕たちだって分かってるんだから……」
「私、最初は元の世界に戻りたいって……二人にもそう言ったけどね」
震える声で、桃は自分の胸元を強く抑えた。
「もう手がかりもないし、いっそこの世界で、このまま骨を埋めても良いかなって思っちゃった瞬間があったの。……でも、違ったんだよ」
視界が熱くなり、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。
「この身体は……ローズのものだもん。私が勝手に使っていいものなんかじゃない……! ちゃんと、元のローズに返さなきゃいけないんだ……!」
「桃……っ!」
ルビーがハッとした顔で桃を見つめ、サファイアも息を呑んだように目を見開いた。
自分がここにいるということは、本来の持ち主であるローズはどこかへ行ってしまったということ。彼女たちの思い出が詰まったこの身体を、自分が奪うようにして使い続けていいはずがない——。
「お願い……っ! みんなで、ローズを取り戻そう!……ついでに私も、元の世界に帰る!」




