番外編 【絶対上手くいくから大丈夫だよ!!! 】
なんであの時の約束を忘れてたんだろう
忙しかったからなんて言い訳だ
遅れちゃったけど今日守るよ
ーー放課後ー廊下
放課後を告げる鐘が鳴り響いた。
サファイアは,ローズにどう声をかけるべきか,寮へ戻る彼女の背中を追いかけながらぐるぐる悩み続けていた。しかし——ほんのわずかに踏み出すのを躊躇した,その一瞬。
「あ,ローズ! 一緒に帰ろ!」
他の女子生徒たちに明るく声をかけられたローズは,そのまま楽しそうに普通科棟の門の方へと歩き去ってしまう。
「あっ……」
伸ばしかけた手を降ろす。
(…ヘタレもいい加減にしなさいよ!!)
(……お前,このまま指くわえて見てて,後悔しても知らねーからな?)
昼間に突きつけられたトパーズとルビーの怒声と冷ややかな言葉が,脳内で何度も,何度もリフレインする。焦る足取りでローズの後を追おうとしたその時,少し離れた中庭の入口付近で,男子生徒の声が響き渡った。
「ローズさん! 後で桜の木の下に来てください! お願いします! じゃあ!」
「えっ,あ,はい……!?」
嵐のように走り去る男子生徒と,ぽかんと取り残されるローズ。
それを取り囲むように,一緒にいた女子生徒たちが一気に黄色い歓声をあげた。
「きゃーっ! ローズ,告白イベントじゃん!」
「モテモテじゃん,ローズ!」
「最近ローズすごくモテるって噂だしね〜,やったじゃん!」
物陰からその光景を見ていたサファイアは,全身の血が引いていくのを感じていた。
(は……?? 最近よくモテる……?? 告白……??)
頭が真っ白になる。
魔力が暴発した無茶苦茶な魔法に笑顔でも突き進む明るさ。クラスでイジメられて一人でいた自分に,「いっしょに遊ぼう!」と真っ直ぐな瞳で声をかけてくれたこと。「思いは魔力を超えるんだ!」と絶対に夢を諦めなかったところ。誰かのためなら躊躇なく危険な列車にだって飛び込んでいってしまう。桃の周りが幸せじゃなきゃ桃も幸せになれないって無謀とも思えるほどの量を一緒に作ったハンカチもスカーフ、今は自分達と同じ目に合わないためにとトパーズ達の防護服を熱心に作る——そんな,真っ直ぐで,破天荒で,愛おしいやつ。
ずっと,特別だった。
壊したくなくてずっと気がつかないフリをしていた。今,他の誰かに奪われそうになったことで想いが溢れ出しかけている。
「……そりゃ,モテるよな……」
ポツリと漏らした呟き。
【でねでね!! 絶対上手くいくから大丈夫だよ!!! 次会った時絶対に伝えてよ!!!!】
かつての友の言葉を思い出す。
一度深く息を吐き出し,顔を上げる。
目元には,迷いの色は一切なかった。
魔力を足に乗せる、サファイアの足は地面を蹴り出していた。
ーー桜の木の下
「告白と言ったらココだよなー……あ、アイツ本当に来た……。マジでローズのこと呼んだんだ……やるなぁ……」
サファイアのヘタレっぷりを散々見てきただけに,速攻で行動を起こした男子生徒の度胸へ,ルビーは感嘆まじりの吐息を漏らす。
『そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!!』
トパーズが凄まじい眼光でルビーを睨みつけテレパシー越しに怒鳴る。
『もしローズがここに来て告白されてOKしそうになったら私がローズを連れて速攻で逃げるわ! いいわね!? あの男子生徒のことはルビー,貴方がどうにかしなさい! 自分で撒いた種なんだからね!!』
『お,おう……! オレだってローズとサファイアの『仕立て』の技術力には支えられてるからな,しっかりやらねーとな……!』
「……きた!!」
トパーズが耳に魔力を集中させ,聴力を極限まで高める。
「ローズさん,来てくれてありがとう! 実は……俺,まだ話したこともないけど,俺とお友達からでいいから付き合ってく「行くわよ,ルビー……! ——っ!」
飛び出そうとしたトパーズとルビーの目の前を,影が通り過ぎて行った。
「ローズ!! ちょっと来て!!」
「えっ!? な,なにサファイア!? 走るなら先に言ってぇぇぇぇ……!?」
強引に手を引かれ,連れ去られていくローズの叫び声が遠ざかっていく。
残されたのは,手を差し出した姿勢のままポカンと佇む男子生徒。
そして,物陰で口を開けたまま固まるトパーズとルビー。
「「……行くわよ(ぞ)!!」」
ハッと我に返った二人は,速攻でその背中を追いかけた。
ーー外階段
「ちょっ……!! どうしたのサファイア!? ねぇ!!」
息を切らしながら引っ張られていたローズが叫ぶ。
やがて,サファイアは人気のない外階段まで辿り着くと,ゆっくりと走る足を止めた。
(はぁ……はぁ……っ)
とんでもない速度で追いついてきたトパーズとルビーが,慌てて階段下の物陰に滑り込む。トパーズは再び全神経を耳に集中させ,ルビーは人払いの魔法を全体にかける。
サファイアは,深く,深く息を整える。
—どこか憑き物が落ちたような,まっすぐな瞳でローズを見つめた。
「ずっと……ずっと言えずにいた……。ローズ——」
ブワッーーーーーーーッ!!!!!
その瞬間,校庭から突き抜けるような強風が吹き荒れる。
『えっ!? サファイア今なんて言った!?』
思わずテレパシーでトパーズに確認するルビー。
『……私だって風の音で完全にかき消されたわよ……! あっ……』
トパーズのテレパシーが途切れる。
風が止み,舞い上がっていた葉が静かに落ちる。
物陰から恐る恐る覗き込んだ二人の視線の先——。
サファイアは,真っ直ぐにローズの目を見つめていた、その顔はほんのり赤い。
戦慄するトパーズとルビーの眼前で,ローズは顔を真っ赤に染め上げながらもサファイアを真っ直ぐ見つめ、天使とも言えるような笑みを浮かべて,優しく大きく頷いているのだった。
「……たく,肝心なところが風で聞こえないなんてね」
トパーズは息を吐きつつも,どこか誇らしげに言う。
「まぁ……あの二人の顔見りゃ,なんて言ったかくらい分かるだろ。……これでオレたちの未来も安泰だな」
ルビーも肩の力を抜き,やれやれと首を振る。
二人は顔を見合わせると,静かにその場を後にした。
お読みいただきありがとうございました。
今回さらっと触れた「フィアンセ」決定までのエピソードなど、もし「ここをもっと読みたい」という箇所がありましたら、感想欄のほか、X(@Yxhn5g)へのリプライや引用ポスト等でお気軽に教えていただけると嬉しいです。今後の番外編の参考にさせていただきます。




