人を幸せにしたい
おはよう、私の部屋
入れ替わる前より部屋、すごく綺麗になってる
「お母さん! いってきます!」
元気に声をかける桃。
その首元には、ローズから届いた大切なスカーフが優しく巻かれていた。
「はいはい、いってらっしゃい!今日は昨日の朝と違って顔色も良さそうね。目は泣き腫らしてるけど……ちゃんとみんなで元気に遊んで、勉強もほどほどにやって来なさいよ?」
持っていたハンカチで桃の目元を拭う。
「はーい!」
ガチャリとドアを閉め、
タッタッタッ、と駆け足で走り出す桃。
見慣れたいつもの道、いつもの川、いつもの公園……。
その先を抜けた通りの奥にある、大きな琥珀の家。
インターホンのチャイムを鳴らそうとした、その瞬間――。
「桃っ……!!!!!」
「こ、琥珀!?」
勢いよく飛び出してきた琥珀に、ぎゅっと力いっぱい抱きしめられた。
「昨日は全然話せなかったから、ずっとずっと話したくて……! ずっと、ずっと待ってた……っ、ぅぁぁぁぁ……っ」
門の前で子供のように泣きじゃくる琥珀。
「私もだよ……っ、うぅ……ひっぐ……っ」
「おいおい、君たちー」
ビクッ! と二人で肩を跳ね上がらせる。
「感動の再会なのもわかるけどさ。せめて敷地内……いや、部屋の中でやらねーか?見せたいものもあるだろ?」
肩を組みながらも、あきれ顔の茜と、隣で苦笑いを浮かべる蒼が声をかけてきたのだった。
「へ? なにこれ……?」
琥珀の部屋の真ん中に鎮座していたのは、ピアノよりも大きな謎の機械だった。
「力織機だよ。これでそのスカーフと、蒼のハンカチを作ったの」
愛おしそうに、そっと力織機を撫でる琥珀。
「琥珀のじーちゃんグループの博物館にあったやつ、そのまま琥珀の部屋にぶち込むんだもんな……。相変わらずスケールが違いすぎるだろ……」
「あっ……僕が向こうに行った時に見に行ったやつだね?」
あぁ、と納得するように頷く蒼。
「そーそー! いやー、あの後にサファイアが来っから、こっちは本当びっくりしたんだからなー! お前ら、桃とローズのこと好きすぎんだろ〜?」
ニッっと意地悪そうに笑う茜。
「なっ……!? い、今それは関係ないだろ!?」
「そ、そーだよ!!そ、それでこの、りき……なんだっけ? これがどうかしたの!?」
顔を真っ赤にした桃は、慌てて話題を本題へと引き戻した。
「ローズはね……サファイアから入れ替わりの原因と考察を聞いてから、ずっと、ずっと……『桃のため』って言いながら……。
もう動かなくなっていた蒸気機関を自分の魔力で無理やり動かして、この力織機を動かしてたの」
うっすらと目に涙を溜めながら、琥珀が語る。
「あいつの魔法の使い込みよう、怖いったらなかったぜ? 蒼が見てた時よりも、コレ持ってきてからのほうがマジでヤバかったからな……」
「うわぁ……そいつはご愁傷様……」
「それなのに……あいつ、絶対に諦めねぇんだよ。
『絶対に完成させる。絶対にこの思いは消させない』ってさ……。
サファイアも一緒に魔力コントロールを手伝って、あいつらふたりで……それを作ったんだよッ……!」
ぐすっと鼻水をすする茜。
「それだけじゃないの……。
『どうやったら上手く魔法陣を組み込めるんだろう』って、2人して何度も、何度も失敗して作り直してたのよ……」
溢れ出る涙を隠すように、手で両顔を覆う琥珀。
「この世界の技術に一喜一憂しながらさ……勉強で頭が沸騰しそうになりながらもっ……!自分の力で最高の絹糸を買うんだって、サファイアが考えて私のお父さんに『出資してください』って本格的なプレゼンまでしてさ……ッ!」
「『桃と蒼の周りが幸せじゃなきゃ、桃と蒼は幸せになれない』とか言ってさ……桃だけじゃなく、みんなの分まで作ってたんだぜ?」
そう言って、茜がポケットからハンカチを取り出してみせる。
「うちのお父さんなんて『勿体なくて使えない!』って、おばあちゃんの仏壇に供えてるんだから……っ。もう、笑っちゃうよね……っ」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、琥珀が笑う。
「一番上手に出来た“それ”を指差してさ……『これが桃の!』ってはしゃいでたんだ……」
茜は目頭を強く押さえながら、桃の首元に巻かれたスカーフを指差した。
「…………っ」
その言葉の、ひとつひとつに込められた重みと愛おしさ。
桃と蒼は何も言えないまま、ただ溢れ出る涙を流しながら、静かに耳を傾けていた。
数年後――。
進路相談、三者面談の日。
「私、工業がやりたいんです」
真剣な眼差しで、桃は教師とお母さんに向かってはっきりと口にした。
「なっ……!? 桃、そんなこと一度も言ったことなかったじゃない!?」
隣で目を丸くして驚くお母さん。
「へぇ~? 君は全体的に成績も悪くないし、もっと別のところに行くと思ってたよ。ま、いいんじゃない? 君が決めたんならさ~。ねぇ、お母さん。今どきは子供のやりたいことを尊重してあげないとねぇ」
どこかヘラヘラとした調子で、担任の教師が肩をすくめる。
「昔……友達と命がけでもの作りをしたことがあって。その時にもらった賞賛も、仲間との絆も、全部今の私の糧になってるんです。だから私……自分が作った物で、人を幸せにしたいんです」
桃は、首に巻いた大切なスカーフをきゅっと手で掴んだ。
「命がけねぇ〜若いっていいなぁ?んじゃぁ、君は工業ね~! りょ~かい、出しとくよ~」
「ありがとうございました!」
進路指導室を出ると、廊下で待っていた蒼と茜を見つけ母と別れた、桃は2人にニヒヒと笑ってみせた。
「決まったか? 桃」
優しく微笑みながら問いかけてくる蒼。
「うん! 工業、第一志望!」
親指をグッと立ててサインを作ってみせる。
「ハッ、ま~たお前と同じだな!」
バンッ! と遠慮のない力で背中を叩いてくる茜。
「琥珀にも報告しに行かないとね! 公園まで競走ーーー!!!」
「だから、廊下を走るなって!」
「はーい、蒼おかーさん!」
首元の柔らかいスカーフが、校内の廊下に吹き抜ける風にふわりと揺れた。
三人は、琥珀の待ついつもの公園に向かって、元気に駆け出していったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました、この後も魔法組をエピローグとして少し出していこうと思います。
この作品は私が実際に夢で見た超大作を元に書いています、そのため19世紀のものや物作りなど私の専門外のものばかり出てきていますが、素人なりに心を込めて書きました。
改めましてありがとうございました。




