スカーフ
(知らない、天井だ……。ここは……?)
桃の意識がゆっくりと戻ってくる。
(だれ……? 白い白衣……? お医者さん……?)
「あなたにお話があります。いいですか?
どうか落ち着いて聞いてくださいね。
あなたが眠っていたのは、3時間ほどです」
ベッドを離れ、ずっと傍で見守っていた人物が駆け寄ってくる。
「桃……!!!」
「琥珀……???」
「桃だよね!?!? 桃で合ってる!?!?」
泣きながら、必死な形相で尋ねてくる琥珀。
ガバッ! と全力で抱きつく。
「ただいま……!!! 蒼も一緒に帰ってきたよ……っ!!!?」
バンッ! と力いっぱい背中を叩かれた。
「お前っ……帰ってくるのが遅いんだよ!!
……心配したじゃねーか……ッ!」
涙を必死にこらえながら、震える声で叫ぶ茜。
「っ……僕もちゃんと帰ってきたんだけどな……」
ゆっくりと起き上がりながら、隣のベッドから体を起こす蒼。
――帰ってきたんだ…………。
「では、お大事に~」
病院から、あっさりと追い出されるように外へ出る。
すると、受付を済ませてきたお母さんがパタパタと小走りで寄ってきた。
「桃ったら、心配ばっかりかけて!
最近はずっと『琥珀ちゃんの家でやるんだ〜』って作業ばっかりやってるから、そうやって倒れちゃうのよ? ちゃんと休憩もしなさい!」
「あっ……そうだね、ははは……。お母さん、ただいま……心配かけてごめんね……」
桃は肩を小さく震わせながら答える。
「もう、何があったか知らないけど、困ったら誰でもいいから相談するのよ! お母さんでもお友達でも!
琥珀ちゃん! 茜くん! 桃のこと見ててくれて本当にありがとうね! 蒼くんも、今日はちゃんと休むのよ!」
母が明るく声をかけると、桃を車に乗せる。
「っ…!明日休みだから朝から家集合よ!!!」
琥珀が必死に叫ぶ、コクリと窓から頷く桃。
温かなエンジンの音を聞きながら、桃は窓の外の日常の景色をぼんやりと眺めた。
「桃〜! あなた、今日は疲れてるんでしょ? もうシャワー浴びて寝ちゃいなさい? 着替え用意しとくから、ご飯食べたいなら言ってね〜」
「はーい」
先に家へ入り、台所へ向かうお母さんの声に返事をする。
桃はそのままお風呂場へ向かい、温かいシャワーを浴びてから自分の部屋へと戻った。
「これ……なに……?」
ふと目を向けた机の上に、一枚のスカーフと手紙が置かれていた。
手紙を開くと、そこには整った文字でメッセージが綴られていた。
◇
『桃へ』
『私たちは、入れ替わっていたみたいだね。途中からサファイアがこっちに来てくれたから、いろいろ教えてくれました。新月のタイミングのことや、産業革命の遺産のこと、そして——思いの強さで帰れるんだってこと』
『だから私は、桃へこのスカーフを作ることにしました』
『布ってね、いくつもの糸が集まって出来ているんだよ。それを、私の少ない魔力をちょっとずつちょっとずつ編み込んで、願いを込めた魔法陣をこのスカーフに組み込みました』
『桃がこの世界で、いつまでも家族と、友達と、蒼と……幸せでいられますようにって、願っています』
『ローズ』
◇
「っ〜〜〜〜!!!!! ローズ〜〜〜〜!!!!!」
桃は溢れ出る涙を拭いもせず、そのスカーフをぎゅっと胸に抱きしめた。
まだ一度も会ったことのない親友を思いながら桃はそのまま深い眠りについたのだった




