ノート
こんな物しか残せないけど置いておくね!
あっもしあれが残ってたらもらって欲しいの、琥珀も怒らないと思うから
新月まで、残り1日――。
その夜。
「ねぇトパーズ、ここの力学の話なんだけど……」
桃はノートを広げた。
普段の元気さとは裏腹に、文字だけはとても丁寧に書かれている。
「あら、力学だったら蒼の方が得意だわ。
蒼、ちょっと見てあげて……あ、ちょっと待って! ルビー!」
「んー……?」
少しくらいの音なら出せるほどに喉の炎症が引いていたルビーが、顔を上げる。
「桃は力学を蒼に教えてもらって、機械製図はルビーに見てもらいましょう。私はハーブティーでも淹れてくるわね」
「ぐぅぅ……ここはこれであってますか……蒼先生……?」
「そうそう、ここはこっちにメモを付けておくと、見返した時にすぐ分かるぞ」
(こっちも教えてくれ〜)
ノートの端に、ミミズがのたうつような崩した字でルビーの筆談が添えられる。
「はいはい、ルビーのはここの計算だな」
蒼がペン先でルビーのノートをトントンと叩いて解説する。
「はい、どうぞ。ルビーにはハーブティー、桃と蒼は紅茶よ。
……さて、ルビーは私が付きっきりで見てあげましょうか」
「待って! 師匠! 機械製図を先に!!! お願いします!!」
「ん……オレが、見る……っ!」
ルビーはかすれ声でそう言い放つと、力学のノートを吹き飛ばす勢いで桃の機械製図のノートを引き寄せた。
「あらま。さすが職人ね」
「師匠ー! 歯車は書けたんですけど、軸の位置が分かりません……」
(先に中心を決める。円を描いてから、歯だ)
ルビーは桃のノートへ直接ペンを走らせ、素早く正確な図を書き込んでいくのだった。
「っーーーーーー!!!! これでみなさん、いいでしょうか!?」
魂が抜けたような顔で、桃はびっしりと文字が書き込まれたノートをみんなに突き出した。
「ええ、とても綺麗よ」
「怪我をしてた分までわざわざ、こんなに完璧にまとめるなんてさすがだな」
蒼が頭にぽんと手を置いて励ましてくれた。
「桃がこれだけ理解できているなら、絶対に大丈夫よ」
トパーズはそう言いながらふふっと優しく笑う。
『あいつより、もう桃の方ができるようになっちまったんじゃねーの?』
ルビーがへへっと笑う。
「……ですって、桃もローズも、本当に頑張り屋だからどちらも偉いわよ」
「向こうに戻ったら戻ったで、いなかった一ヶ月分の遅れを取り戻さなきゃいけないと思うと、今から頭が痛くなるな……」
蒼も、サファイアのノートを片付け始める。
「待って、それじゃあ私、二ヶ月分の勉強をゼロからやり直すの!?!? あ"ーーーーー……!」
半泣きになりながら、桃はローズのためのノートを慌てて重ねていく。
「でも、言い出したのは桃自身だろ?」
「『こっちに戻ってきた時、ローズが困らないように、私でも分かるくらいに綺麗なノートを残すんだ』ってさ」
『桃のそういうところ、本当にいいところだと思うぜ』
「……ですって。本当に、桃は優しいんだから……」
「でも、これだけじゃ分からなかったら、あとは二人ともお願いね!」
桃はトパーズとルビーに向かって深々とお辞儀をし、えへへと照れながら笑ってみせたのだった。
もう少しで終焉です。
もう少しだけお付き合いよろしくお願いします。




