今のうちに言っとく
新月まで、残り5日――。
ガタン、ゴトン……ガタン、ゴトン……。
規則的な揺れと音がする車内。
桃はかぎ針を大切そうに握るトパーズを見つめた。
「どう? トパーズ、何か感じる?」
「最初の頃の訳の分からない魔力じゃなくて……今は、とても穏やかよ」
トパーズは手の中のかぎ針をそっとなでながら、車窓の外へと視線を向ける。遠ざかっていく街並みはの夕暮れはキレイだった。
「ルビーも大丈夫か? さっき一緒に入ったって聞いた時は心配したぞ。お前は普通科なんだろ? 負担とか酷いんじゃないのか?」
蒼が心配そうに視線を投げかける。
『オレもちょっと覚悟して行ったんだけどさ。最初の時と比べて、すごく温かい場所になってたぜ。だからへーきへーき……まぁ、疲労感はやばいけど……』
「……ですって? そりゃわたしの術に付き合えばそうなるわ。自慢じゃないけれど、わたしは学校のエリートだからね、ふふ」
誇らしげに胸を張るトパーズに、桃の瞳からポロポロと涙が溢れ出した。
「さすがトパーズ! かっこいいなぁ……! 本当に無茶だって思ってたことをやってのけちゃうんだもん……! 本当に最初は、死んじゃうんじゃないかって……っ」
「っ……! 桃、ごめんなさい! わたし、自分のことばかりで……みんなにすごく甘えていたわ……っ」
繋いでいたルビーの手をそっと離し、トパーズは涙を流す桃を抱きしめた。二人して声を上げてボロボロと泣きじゃくる。
「……違うだろ。自分のためだけに動くような人じゃないことくらい、みんな分かってる」
蒼が眼鏡の奥の目を細め、不器用に二人を慰めるように言葉を添えた。
『まー、上手くいったんだからいいじゃん! 後は信じるだけだろ』
ルビーはそう脳内で呟くと、泣いているトパーズの背中を優しくぽんぽんとさすった。
「はい、あーん――うん、あれだけ傷が開きかけていたというのに、カルテの記録よりずっと元気になっているじゃない! ちょっと無茶な魔法も使ったみたいだけれど、ちゃんとインペリアル様と一緒にいたのね! さすがだわ」
るんるんと上機嫌で聴診器を動かしながら、医務室の先生は感心したように微笑む。
「あの、先生……もう、この手を離してもいいですか?」
ベッドの脇で、トパーズは恥ずかしそうにうつむきながらルビーの手を見つめた。
「ええぇー? せっかくのラブラブなのに離しちゃうの?? ……なーんてね! 無事に帰ってきたんだから、もういいわよ! はい、おしまい!」
先生がパッと手を振って許可を出す。続けて、先生はカルテをめくりながら桃の方へと向き直った。
「それじゃあローズちゃん! 2週間くらい前に相談させていただいてた手の骨折――と言っても可愛いヒビだけれど、しっかり診ておきましょうね。外の世界に行く子たちは大体悪化して帰ってくるから」
「あっ! 私、あの日から全然手も使ってないですし、痛みもなくて多分もう……」
「んー、どれどれ……よし、完璧ね! あなた、本当に骨が強いわねぇ〜!」
魔法具を使って骨の異常が無いか先生はパッと見る。
「えへへ、褒められちゃった!」
桃は嬉しそうにふにゃっと笑顔を咲かせる。
「そこを褒められて、嬉しいものか……? まぁ、体が弱いよりは頼もしいけれど……」
蒼は眼鏡を押し上げながら、複雑そうに首をかしげた。
『あーあ、手を離していいってさ。もっと繋いでても良かったのに』
『……本当に、そういうストレートなことばかり言うんだから』
トパーズはテレパシー越しに真っ赤になりながら抗議する。
『だってもうすぐ喉も治るんだし、治ったらコレで言えなくなるから今のうちに言っとく』
ニヤッと悪びれもせず笑うルビーの横顔に、トパーズはプイッと横を向くのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
本作は、明日の更新をもって本編完結となる予定です。
本編完結後にエピローグも少し考えております。
桃とその仲間達の結末を見守っていただけたら幸いです。




