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魔法のない普通科で。    作者: ワイ
追憶と残響の桃
135/148

今のうちに言っとく

新月まで、残り5日――。

ガタン、ゴトン……ガタン、ゴトン……。

規則的な揺れと音がする車内。

桃はかぎ針を大切そうに握るトパーズを見つめた。

「どう? トパーズ、何か感じる?」

「最初の頃の訳の分からない魔力じゃなくて……今は、とても穏やかよ」

トパーズは手の中のかぎ針をそっとなでながら、車窓の外へと視線を向ける。遠ざかっていく街並みはの夕暮れはキレイだった。

「ルビーも大丈夫か? さっき一緒に入ったって聞いた時は心配したぞ。お前は普通科なんだろ? 負担とか酷いんじゃないのか?」

蒼が心配そうに視線を投げかける。

『オレもちょっと覚悟して行ったんだけどさ。最初の時と比べて、すごく温かい場所になってたぜ。だからへーきへーき……まぁ、疲労感はやばいけど……』

「……ですって? そりゃわたしの術に付き合えばそうなるわ。自慢じゃないけれど、わたしは学校のエリートだからね、ふふ」

誇らしげに胸を張るトパーズに、桃の瞳からポロポロと涙が溢れ出した。

「さすがトパーズ! かっこいいなぁ……! 本当に無茶だって思ってたことをやってのけちゃうんだもん……! 本当に最初は、死んじゃうんじゃないかって……っ」

「っ……! 桃、ごめんなさい! わたし、自分のことばかりで……みんなにすごく甘えていたわ……っ」

繋いでいたルビーの手をそっと離し、トパーズは涙を流す桃を抱きしめた。二人して声を上げてボロボロと泣きじゃくる。

「……違うだろ。自分のためだけに動くような人じゃないことくらい、みんな分かってる」

蒼が眼鏡の奥の目を細め、不器用に二人を慰めるように言葉を添えた。

『まー、上手くいったんだからいいじゃん! 後は信じるだけだろ』

ルビーはそう脳内で呟くと、泣いているトパーズの背中を優しくぽんぽんとさすった。 


「はい、あーん――うん、あれだけ傷が開きかけていたというのに、カルテの記録よりずっと元気になっているじゃない! ちょっと無茶な魔法も使ったみたいだけれど、ちゃんとインペリアル様と一緒にいたのね! さすがだわ」

るんるんと上機嫌で聴診器を動かしながら、医務室の先生は感心したように微笑む。

「あの、先生……もう、この手を離してもいいですか?」

ベッドの脇で、トパーズは恥ずかしそうにうつむきながらルビーの手を見つめた。

「ええぇー? せっかくのラブラブなのに離しちゃうの?? ……なーんてね! 無事に帰ってきたんだから、もういいわよ! はい、おしまい!」

先生がパッと手を振って許可を出す。続けて、先生はカルテをめくりながら桃の方へと向き直った。

「それじゃあローズちゃん! 2週間くらい前に相談させていただいてた手の骨折――と言っても可愛いヒビだけれど、しっかり診ておきましょうね。外の世界に行く子たちは大体悪化して帰ってくるから」

「あっ! 私、あの日から全然手も使ってないですし、痛みもなくて多分もう……」

「んー、どれどれ……よし、完璧ね! あなた、本当に骨が強いわねぇ〜!」

魔法具を使って骨の異常が無いか先生はパッと見る。

「えへへ、褒められちゃった!」

桃は嬉しそうにふにゃっと笑顔を咲かせる。

「そこを褒められて、嬉しいものか……? まぁ、体が弱いよりは頼もしいけれど……」

蒼は眼鏡を押し上げながら、複雑そうに首をかしげた。

『あーあ、手を離していいってさ。もっと繋いでても良かったのに』

『……本当に、そういうストレートなことばかり言うんだから』

トパーズはテレパシー越しに真っ赤になりながら抗議する。

『だってもうすぐ喉も治るんだし、治ったらコレで言えなくなるから今のうちに言っとく』

ニヤッと悪びれもせず笑うルビーの横顔に、トパーズはプイッと横を向くのだった。



いつも読んでくださりありがとうございます。

本作は、明日の更新をもって本編完結となる予定です。

本編完結後にエピローグも少し考えております。


桃とその仲間達の結末を見守っていただけたら幸いです。


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