手だけは離さないで
「ん〜〜〜〜〜〜っっ!!」
ホームへ降り立つなり、桃は両手を頭上に高く掲げて「うーん」と豪快に伸びをした。
「流石に半日の列車移動は疲れるなぁ……」
軽くストレッチで肩を回しながら、蒼はルビーの乗る車椅子の押し手を握り直す。
『ねーーー……オレなんて朝起きてから、列車の乗り降り以外ずっと座りっぱなしなんですけど……。動いてなくても疲れるんだな、人間って……』
車椅子の背もたれに深く体重を預け、魂が抜け出たようにげっそりとしているルビー。
「……ですって? ふふ、おばちゃんからも少しくらいなら歩いて良いって言われているんだから、後でリハビリがてら少し歩きましょうね」
トパーズはクスッと微笑みながら、繋いだルビーの手をきゅっと愛おしそうに握り直した。
異国情緒あふれる街並みを抜け、地図と資料を頼りに進んでいくと――突如として視界が開けた。
「うわぁ……すごい……!」
桃と蒼の手にある地図と本に記されていた通り、目の前には重厚な金属の蒸気を吐き出す、圧倒的なスケールの『大工場』がそびえ立っていた。
巨大な歯車がゆっくりと回転し、魔力光の煙突から色鮮やかな煙が空へと昇っていく。
「本当に……あったね。ここが、今回の目的地……」ここでやるわ。桃、かぎ針を」
人気の途絶えた路地裏に入ると、トパーズが静かに口を開いた。
「うん…っ!」
桃はポケットから手際よくかぎ針を取り出し、トパーズへと手渡す。
「桃そんな目で見ないでちょうだい。大丈夫、ただの魔力感知よ」
トパーズはふっと微笑むと、手慣れた仕草でゆっくりと呼吸を整えた。
――ブワッ……!
トパーズを中心に、美しく澄んだ魔力の波紋がふわりと周囲へ広がる。
見慣れたいつもの魔力感知。過酷な出来事が続いていただけに、久々に見るトパーズの穏やかな魔法に、桃は思わず胸が熱くなるのをぐっと堪えた。
「……いつもと反応が違うわね。なにやら、温かい……?」
『オレも手伝う』
脳内に直接届いた声と同時に、繋いだ手のひらからじんわりと優しい温もりが流れ込んでくる。
「ふふ、ありがとう、ルビー」
――こっちだよー。
『「!?!」』
その瞬間、ルビーとトパーズの体が同時にびくりと跳ね上がった。
「どうした、何かあったのか!?」
突然の二人の様子に、蒼が身を乗り出して心配そうに声をかける。
「魔力感知しかしていないのに、あの子の声が聞こえた気がするの……」
『気のせいじゃないぞ。オレだって聞こえた』
「……ですって」
トパーズがルビーの言葉を代弁すると、桃がパッと表情を輝かせた。
「じゃあ、ここが当時あの子たちがいた場所で当たりなんだね!」
「ふぅ……。じゃあ、本命の魔法を始めるわ……。みんな迷惑かけるわね…」
トパーズは申し訳なさそうに、けれどどこか愛おしそうに微笑んだ。
『ルビー今回は絶対入ってきちゃだめよ、でもお願い、手だけは離さないでね…?』
『当たり前だろ』
ルビーはそう脳内で呟くと、繋いだ手を力強く握り返した。
◇
お姉ちゃん!! こっち! こっちだよ! ここはおじちゃんたちとお兄ちゃんたちがいたところだね! よかった、みんな帰れたんだね! 僕のところはもっとあっち!
「おじちゃんとお兄ちゃん……?」
うん! お姉ちゃんにありがとだって!
◇
「うっ……はぁ……っ、はぁ……っ、あっ……!」
魔法を終えたトパーズは荒い息を吐き出していたが、その瞳はしっかりと輝きを保っていた。
「……トパーズ!? もしかして、もう帰ってきてるの……!?」
桃が驚きと心配の混ざった声を漏らす。
「砂時計を確認しても、半分くらいしか減っていないぞ……! しかも、そんなに精神的な苦痛もなさそう……なのか!?」
蒼も信じられないといった様子で声を上げた。
『トパーズ!? 大丈夫か!?』
ルビーは繋いだ手をギュッと握りしめ、脳内で必死に呼びかける。
「っ……はぁ……おじちゃんと、お兄ちゃんが……帰れたって……」
桃に冷たいタオルを目元に優しく当ててもらいながら、トパーズは小さく笑みをこぼした。
「でも……くっ、はぁ……あの子の本当の帰る場所は、まだここじゃないみたい……」




