不思議だな
翌朝――。
「おはよ! 昨日はよく眠れた?」
にやにやと医務室の扉から覗き込んだ桃は、室内でふたつのベッドがぴっちりとくっつけられているのを目ざとく確認した。
「あれだけのことをやっておいて、ルビーですら自分で立てるくらい回復できてるんだもんな。すごいなー、不思議だなー? なぁ、桃?」
「ええ、蒼隊長! 奇跡の回復力にびっくりであります!」
蒼の思わせぶりな振りに、桃が敬礼しておどけてみせる。
「〜〜〜〜っ!!!??? ふ、ふたりはどこから聞いていたの!? 答えなさい!! 白状しなさい!!!」
顔を真っ赤にしたトパーズが、ドタバタと二人を追いかけ回し始める。
その狂騒をよそに、
(なんなんだよ、こいつら……)
おばちゃんとのやり取りを何も知らないルビーは、呆れたようにため息をつきながら、用意された車椅子へと体を預けた。
学園外―――。
「ここが、この世界の街……」
一歩足を踏み出すと、そこは学園の敷地内とはまるで違う光景が広がっていた。
頭上を行き交う魔導人力車や、慌ただしく箒に乗って空を飛ぶ配達員。通り沿いには色鮮やかな魔力光を放つ看板が立ち並び、街全体が活気に満ちている。
「すごい!! すごいね!! 学校でもすごいと思ったのに、こんなに魔法ってキラキラしてるのか〜!」
「流石にこれは目を見張るものがあるな……」
子供のように目を輝かせる桃と、車椅子を押しつつも驚きで目を丸くする蒼。
一方、ルビーとトパーズはしっかりと手を繋ぎながら――おばちゃんに「常に手を繋いでなきゃ外出なんてさせないわよ!?」と強く警告された結果なのだが――感動する二人を静かに眺めていた。
『そうか? 普段からこんなもんだけどな』
手のひらから脳内へ届くルビーの声に、トパーズはふっと微笑む。
「ね? わたしたちにとっては、なんてことない日常の風景だものね」
――駅のホーム。
「うわぁ……教科書で見た産業革命の写真そのままだ……」
魔法の光が飛び交う街中とは対照的に、ホームに鎮座する黒々とした線路や重厚な車体は、まさにその時代の造形そのものだった。
「そうなのね。でも、修復を重ねながらずっと使い続けているから、そうなってしまうのかもしれないわ」
「魔法の世界に来たはずなのに、今度は過去へタイムスリップした気分だよ……」
圧倒される蒼の横で、トパーズの手を握るルビーの怠惰な声が、脳内に直接響く。
『そんなもんかねー? そんなことより、腹減ったんだが……』
「……ですって。ふふふ……桃!」
「はい! はいっ! お弁当ありますよ!! 車内なら食べても良いんだもんね!? 楽しみだなぁ〜!」
トパーズに呼ばれた桃は、荷物の中から大事そうにランチバッグを取り出し、るんるんとした足取りで弾んでみせる。
「あっ、僕たちが乗るのってアレかな? ……あの時の列車と、ほとんど同じ型だ」
その姿を見つめながら、4人はかつて学園の敷地に停まっていたあの列車のことを、思い出していた――。




