栞
「トパーズがこう言い出したら、聞かない気がするな……」
向こうの世界の友人を思い出しながら、蒼は小さくため息をついた。
「んで、どこなんだその街は?」
ボロボロのルビーを介抱する蒼に、トパーズかパッと顔を上げる。
「このかぎ針が作られた街! 銀細工がたくさんあって、栞もあったそうなの!」
「「えっ」」
「待って! わざわざ調べる事じゃないかも……いやでも記憶違いかもしれないし……あ、でも場所を知らないからやっぱり調べてくる! 二人は休んでて!! 絶対に二人だけでやらないでよ、絶対よ!!! 蒼、行くよ!!」
「え、ちょっと――」
桃にぐいっと手を掴まれ、そのまま走り出す。
「だから走る時は前もって言えってーーーーーーー!!」
遠ざかっていく蒼の悲鳴が、廊下に虚しく響き渡った。
図書館内――。
「琥珀がお土産にって、私と蒼と茜に栞をくれたでしょ? 絶対ここでしょ!」
「まぁ、ここ以外に銀細工が無いわけでもないけど、ここが一番有名だから正解だろうな。学園がここで……じゃあ列車で半日くらいか」
半日。往復で丸一日。
残された7日のうち、貴重な1日を使ってしまう。でも――
「わかったよ、一緒に行こう。そう言えば僕たち、この世界のことを学園くらいしか知らないんだ。学園から脱出しないと」
「問題はどうやって脱出するかだね……」
「もう、お父様に行って外出許可は取ってきたわよ」
真後ろから急にひょっこり現れたトパーズに、二人は跳び上がった。
「「きゃぁ!?」」
「そこー、静かにしてくださいー」
「「「はぃ、すみません……」」」
図書委員の注意に肩をすぼめながら、トパーズは声を潜めて微笑む。
「普段なら絶対に学園から出られないけれど、私たちの今の状態を考えて許可を出してくれるって言っていたわ」
「って、あれ? ルビーは?」
「医務室よ。新しい医務官に拷問(治療)されてるわね」
申し訳なさそうに、ふふふ、と笑うトパーズだった。
図書館で銀細工の街の古い地図を借りた三人は、並んで図書館から出た。
「では、確実に明日の朝出かけられるよう、準備をしましょ!」
トパーズがパンッ、と小さく手を叩いて提案する。
「桃、今日は申し訳ないけれど、一緒に寝られないわ……」
「ううん、わかってるよ! ルビーのところでしょ? 私がトパーズの分も荷物を用意しておくから、あ、あとその服も着替えないとね…それは後ですぐ持って行く!」
先ほどのやりとりのせいで制服は汚れている。
「ありがとう桃、助かるわ、左の引き出しに新しいものが入っているから」
「うん、わかってるって!じゃあ医務室に後で行くね!」
笑顔で応じる桃の言葉に、蒼の思考が一瞬フリーズした。
(え? いつも二人で一緒に寝てるのか……?)
脳裏に浮かんだ素朴な疑問。だが、この極限状態と空気の中でそれを突っ込むのはあまりに野暮だと察し、蒼は喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
「……わかったよ。じゃあ僕は、ルビーの着替えとか必要な支度をしておくね、また後で。」
「汚いまま図書館来るな?ですって?、ちゃんと回復魔法と清浄魔法かけてから来てるに決まってるじゃないの、気持ちの問題よ」




