お人好し
「どうやったってそんな木の上のボールなんて取れないって!」
「登って取ればいいじゃないの!」
「そんな事して桃が落ちたらどうするのさ!」あっ
ドスン
「いててて……でもボール取れたよ!」
「ぁ〜ぐぅ………………っ!!」
◇
なにしてるー?
「ここで……あなたと、話したい……っ!」
なにしてるー?
「私は……あなたたちの話を聞きたいだけ……!」
うんいいよ! またねお姉ちゃん!
◇
『トパーズ!!!!!!!やめろ! 砂!!!』
「……ハッ……!!? ……っ、子供……だった……」
「……わかってたけど、子供まで犠牲になっているのかよ……」
蒼が悔しそうに顔を歪め、うつむく。桃は自分の目から溢れる涙や鼻水もそのままに、震える手でトパーズの口元や服についたモノを必死に拭き取っていた。
「私には、なにもできないから……っ。呪いになっちゃってるその子、助けてあげて……!」
◇
お姉ちゃん!
「……あなたは何したい?」
家に帰りたい! ここには家族みんないるけど、話ができないから……帰ってから話したい!
「…ぐぅぅぅぅ……っ!!」
頭を抑えながら必死に対応する。
「……砂は、まだ落ち切っていない。きっと中で対話できているんだ」
砂の減りが明らかに遅くなっていることに蒼が気がつく。
「トパーズ……成功したんだ……!」
ルビーはずっと砂時計を見つめつづけ、トパーズの手を握りしめる力にギュッと拍車がかかった。
◇
「帰るの?」
そう! みんなの街に! 大好きな人のいる街に!愛してる人のいる街に!ここにいる人はみ〜んな同じ!帰りたいってさ!……? お姉ちゃんも帰る?
◇
「っ…はぁ…!!」
『自分で戻ってきたのか!?』
「まだ砂の余裕があるのに、どうした……!?」
「帰っていいって……男の子が……『お姉ちゃんも帰る?』って……私を、返してくれたの……っあの子も……他の人もみんな、みんな愛してる人の元に帰りたいって……」
顔を覆い、しゃくりあげるトパーズ。
ルビーは何も言わず、彼女の背中をゆっくりと、慈しむようにさすり続ける。
桃は震える手でタオルを差し出しながら、自分も溢れる涙を止められずにいた。
「……『帰りたい』という膨大な気持ちが、“バグ”になったのか……?」
蒼の声はどこまでも冷静だったが、その瞳は見たこともないほど揺れていた。
「ズビッ……ええ、そうかも……っ、はぁ……」
トパーズは鼻をすすると、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「帰りたくて……あのクソ魔術師が作り出したこの世界と、あっちの世界……同じ魂の元へ、バグが起きて行ってしまうのかもっ……」
「みんなの家は、どこなんだろうね。……連れて行ってあげたいね」
ぽつりと溢した桃の言葉に、ルビーが念話を重ねる。
『なぁ、なんとか成仏させてやれねーかな? その街とやらを探して、連れてってやればさ……』
「……ですって? でも……それじゃあ時間が……」
「私も知っちゃったら成仏させてあげたいって思う……色々あるけど、期限とか延ばしてもらおうよ?」
えへへと無邪気に笑う桃に、ルビーも同意する。
『期限だって言ってたけど、記憶消さないって約束してくれてるし。とりあえずその子を先にしてあげたいのは、オレも同感だな』
「……ですって? あまりにもお人好しすぎるわよ、二人とも……」
そこへ、冷たい溜息が重苦しく響いた。
「……ハァ」
蒼はこめかみを指で押さえ、三人を見下ろす。その瞳には明確な怒りが宿っていた。
「……お前たち、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「蒼……?」
「期限を延ばす? 相手はあのトパーズのお父さんだぞ。こちらに何のカードもない状態で交渉が成り立つと思っているのか。それに……」
蒼の視線が、汚れた床へ落ちる。
「……トパーズの体がもつわけがないだろう。この惨状だ。新月まであと7日しかないんだぞ。街の話を聞くなんてこの拷問のような苦痛をさらに引き延ばすということだ」
正論すぎる蒼の言葉に、桃もトパーズも言葉を詰まらせる。
蒼は腕を組み、突き放すように、けれど必死に三人を見据えた。
「お人好しも大概にしろ。……期限の延長なんて絶対に認めない。残された7日の中でやるんだ」




