やめない
あの人に釣り合う人になりたい。
みんなを守るために死ぬ思いを何度もしたあの人と同じになりたい、なんて、わがままなのかしらね。
力なく崩れ落ちたトパーズを、蒼が後ろから必死に支え込む。
「もういいよ! もうやめようよ!! こんなの、禁書庫で見た拷問と同じじゃないの……っ!!!」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、桃が悲痛な叫びをあげる。
「もう帰るぞ、桃! ルビー!!」
限界を超えた惨状に、蒼もまた激昂して言い放つ。
だが、ルビーは黙ってポケットからノートを取り出すと、震える手で乱暴に文字を走らせ、蒼の目の前に突きつけた。
(やめない)
紙に書かれた、不器用で強い意思を感じさせる文字。
「お前、何書いてんだッ!! いくらトパーズがやるって言ったからって、こんなの見ていられるわけないだろ!!!」
蒼はたまらず、ルビーの胸ぐらを強く掴み上げた。
激しい怒りでルビーを睨みつける蒼。だが——そのルビーの目からも、ボロボロと溢れ出す涙が伝っていた。
「……トパーズに……頼まれたんだ。ふたりが……止めるのを、止めてくれって……っ」
「っ……!」
その時、ふと桃が階段の上の砂時計に目をやった。
落ちた砂はほんの数粒。まだ10秒すら経っていないというのに——トパーズの圧倒的な魔力が、壊れた精神を異常な速度で強制修復していた。
「嘘っ……!? 砂時計、全然落ちてないのに……もうやるの!?」
「さぁ…………やりますわよ……」
ゆらりと体を起こし、血の混じった息を吐きながら微笑むトパーズ。
——ズキンッ! 脳内で何かが砕け散るような衝撃。
『なにしてる? 来ないで、怖い、コレ嫌、怖いの、もう帰る、悪い事してない、許してね、なにしてる?——』
「んぃぃぃぃぃぁぁぁぁッ!!!」
びくんっと激しく身体を痙攣させ、喉元を押さえるトパーズ。
『トパーズ!!!!!! 何か見つけたんだな!!!!??? 教えろトパーズ!!!!』
ルビーの魂の叫びが脳内に轟く——。
ーーー泣き叫ぶ死者の声が、プツンと途切れた。
「っはぁ………………っ!」
ガバッと跳ね起き、激しい呼吸とともに意識を取り戻すトパーズ。
「トパーズぅ…………うわぁぁぁぁぁぁん!! もう嫌だよーーーーッ!!」
ボロボロと溢れる涙も拭わず、桃がしがみつくようにトパーズを固く抱きしめて泣き叫ぶ。
「ごめんね、桃……無茶だって、自分でもそう思ってたの……。でもね、1人いた……話せる……っ」
——新月まで残り7日放課後。
脳が焼ける。
頭の中で…何.カノ.回路が、ブチブチ、チギレテ.イク。
なにしてる……なにしてる?
——話がしたいの——っ!
死者の問いかけに、意識の途切れるギリギリで喰らいつく。
『トパーズ!!!!!!』
脳内を激しく揺さぶるルビーの切迫した叫びで、トパーズは強制的に意識を引き戻された。
「っー……はっ、はぁ……っ、はぁ……はぁ……っ」
激しい喘ぎとともに目を開けると、桃が震える手で汗と血を拭い、唇に水を注ぎ込んでくれていた。
ぎゅっ、とトパーズの体を抱きしめる桃。
これ以上は何も言わない。言えない。ただ、崩れそうな親友を必死に繋ぎ止めるように抱きしめるだけだった。
「……砂の回復、まだだ。少し休め」
階段の上から蒼が静かな声をかける。
その声に従い、トパーズは荒い息のまま力なく頷いた。
「……っ、は……い……」
階段の周囲は、彼女が吐き出したモノで染まっていた。
まるで拷問部屋のような惨状。
……それでも。
トパーズの瞳の炎は、落ちるどころか一層強く燃え上がっていた。
——やめない。絶対に、やめない。




