禁書庫
食堂でのすれ違いから、あっという間に一週間が過ぎていた。
さんにんは放課後になるたび、約束通り「中央図書館」へと通い詰めていたけれど——。
「あーーーーーっ!! 見つからねぇーーーーーっ!!!」
静まり返った館内に、ルビーの叫び声が響き渡った。
『しーっ……!!』
瞬時に、周囲の生徒たちから一斉に突き刺さる鋭い視線。
ルビーはすかさず「うぐっ……ごめん……」と首をすくめて小さくなった。
しかし、一週間かけた彼らの調査結果は、完全に「収穫ゼロ」だった。
トパーズがこの図書館に姿を現すことは一度もない「はぁ…まぁ無理もないよ異世界への転生や移動に関する手掛かりすら、何一つ見つからなかったからね」
サファイアが積み上がった分厚い魔導書の一冊をそっと閉じ、溜め息をついた。
「調べてみて分かったけど、この世界でも空間の移動や長距離の転送魔法すら、国家級の魔法使いが使う高度すぎる技術なんだ。……ましてや『別の世界からの転生』なんて話になると、もし資料があったとしても、ここにある本じゃなくて禁書庫レベルの扱いになってるんじゃないかな」
「禁書庫ぉ……!? じゃあ、魔法科への抜け道見つけたところで普通の生徒じゃ絶対見られねぇじゃん……!」
ルビーが頭を抱えて机に突っ伏す。
手がかりが完全に途絶えてしまった虚無感と疲労が、桃たちを包み込む。
(…はぁ…情報が何もない…でもこのポケットのトパーズ様のハンカチがなんだか重たいや…)
ふと、桃は読みかけの本から顔を上げ、静かな館内と窓の外へとゆっくり視線を巡らせた。
天井から吊り下げられた繊細な装飾のシャンデリアが、眩しく光る。
窓辺を彩る重厚で煌びやかなドレープカーテン、細やかな刺繍が施された壁紙、そして足元にふかふかと敷き詰められた上質な絨毯…それら全てが、落ちてくる陽光を反射してキラキラと飛び込んでくる。
自分の制服に目を落とす。右手で撫でてみる、肌触りの滑らかな服。隣にいるルビーとサファイアの制服も同じように品格があり、二人の魅力を引き立てている。
行き交う魔法科の生徒たちの制服だってそう、どこを見ても美しいものに満ちあふれている。
視界いっぱいに広がるキラキラなモノたちを桃はしっかりと目に焼き付けた。
ここで暮らすのに、何の不自由があるんだろうか。
憧れていた魔法は、自分には使えない。
けれど、この世界には息をのむほどキラキラなものがこんなにもたくさんある、そして何より——自分のために本気になって、毎日一緒に悩んで頑張ってくれる2人がいる。
胸の奥がじんわりと温かくなり、理由のない涙がこぼれそうになった、その瞬間。
人波が途切れた図書館の回廊の影に、見間違えるはずのない綺麗なシルエットが映った。
(——トパーズ……!?)
「あっ…いた…!」
考えるより先に、桃の身体が動いていた。
「おい、桃!?」というルビーの驚く声も、サファイアが制止しようと伸ばした手も振り切って、桃は煌びやかな光が差し込む絨毯を蹴り、トパーズの背中を目掛けて一心不乱に走り出していた。




