食え
学校の鐘が鳴る。
授業終わりの合図——つまり、テントを片付けて撤収しなければならない時間だ。
作り上げたオルゴールを、近くのベンチに腰掛けていたルビーにそっと託す。
工具や残っている材料、道具を手分けして列車へと詰め込んでいく。
周りの学生たちも楽しそうに片付けをしながら、この1ヶ月間の思い出を賑やかに語り合い、思い思いの場所へと散っていく。
「ご飯、食べよっか……?」
無気力にそう笑う桃の言葉に頷き、4人はゆっくりと食堂へ向かった。
食堂に到着し、目の前に温かい料理が運ばれてくる。
だが、桃はフォークに伸ばした手を止めたまま、どうしても動かすことができなかった。怪我で利き手が上手く使えないからではない。恐怖と絶望で、指先がガタガタと震えて止まらないのだ。
——短命、短命、自害、自害、自害、自害、短命、自害——
脳裏を焼き尽くすように、あのリストに刻まれていた無機質な文字が何度も何度も反芻される。
(ここに来た人たちは、どんなふうに、どんなことを思いながら生きてきたんだろう……。もし明日、トパーズのお父さんと話して、私たちが異世界転生者だってバレたら……私だって……)
(……今から逃げる……? だったら表彰なんてされちゃダメだ。オルゴールなんて作らなきゃよかった……)
ぐるぐると渦巻く思考と絶望に押し潰されそうになった、その時。
むぐっ。
「……!?」
唐突に口元へ差し出されたスプーンから、桃の口の中へ無理やりプリンが押し込まれた。
驚いて顔を上げると、目の前にいたルビーが、自分の口を『あ~ん』と大きく広げて見せている。
( く え )
口を限界まで広げたまま、「食え」と全身で訴えかけてくるルビー。
その不器用で、粗野で、けれどあたたかい優しさ。
甘く冷たいプリンの味が、ぎゅっと強張っていた桃の口内に広がっていく。
「……美味しい……」
ぽろりと溢れ出た声とともに、桃の目から溜め込んでいた涙がひとつ、頬を伝って零れ落ちた。
「ほら、蒼も食べなさい。またスコーン押し込まれたい?」
ふふっと笑いながら、トパーズが目の前へぐいっとスコーンを差し出してくる。
「だ、大丈夫だ、自分で食べるよ……ありがとう」
苦笑いしながら出されたスコーンを受け取り、口いっぱいに頬張る蒼。
「はい、ミルクティーよ。スコーンにはミルクティーって、おばぁちゃまから言われているの」
「…うん、…美味しい」
カップから手のひらに伝わる温かさと、喉の奥へと広がる甘さが、冷え切っていた身体をじわじわと解かしていく。
『あーあ、桃に全部プリン食われちまったー。ちぇっ』
不満そうに念を送って見せつつも、ルビーの表情にはどこかホッとしたような安堵が浮かんでいた。
『そういうところよ』
『何がだよ』
トパーズの言葉の意味が分からず、ルビーの頭の上に小さな疑問符が浮かぶ。
『秘密』
ふふと悪戯っぽく笑うトパーズ。
そして、桃と蒼の二人が少しずつ食事を口にし始めたのを確認すると、満足そうに腕を組んだ。
「いいですか、ふたりとも!!」
食堂にいきなり響き渡る声。
「「「!?!?」」」
不意を突かれた三人は、思わず肩を跳ねさせた。
トパーズは胸を張り、毅然とした態度で言い放つ。
「私はインペリアルトパーズですわよ? 相手が誰であろうと、あなたたちふたりを傷つける奴は絶対に許しません! ありえません! 誰とだって戦ってやります!」
ぷっ。
あはははは!
重く張り詰めていた空気が一瞬で弾け、二人の口から笑い声が零れ出た。
「だから……無理するなって、トパーズ」
目元を拭いながら蒼が笑う。
「本当に似合ってないぞ、トパーズ!」
桃もまた、さっきまでの震えが嘘だったかのように、愛おしそうな笑顔を取り戻していた。
ここまで読んでくれた方なら勘づいてると思いますが私は食べる事が大好きです。
食べる事は生きること。
何でもいい、食べてくださいね。




