生涯リスト
「「これって……」」
床に落ちたその重い本の表紙には、古びた文字で『異世界転生者生涯リスト』と記されていた。
二人は息を呑みながら、ぱらぱらとページをめくっていく。
ヒスイ(25) —— 農夫の妻としての役割を全う。5年後に死亡。
ルリ(13) —— 学生。3年後に自害。
シンジュ(40) —— 列車勤務。元の世界と同じく一家の大黒柱として働く。1年後に死亡。
「っ……はっ…はあ……」
呼吸が荒くなる、ページをめくる手が震える。
オパール(35) —— 元の職業が講師のため、同じ職業は不可と判断。商人勤めとする。5年後死亡。
ムーンストーン(18) —— 元の職業が魔法使いのため、同じ職業は不可と判断。工業勤めとする。2年後自害。
フローライト(80) —— こちらへ来た時点で高齢。家族の一員として過ごす。3ヶ月後死亡。
分厚いノートの隅から隅までにびっしりと書かれた、転生者の名前とあてがわれた職業。
そしてその横には——別の色のインクで、後から機械的に描き足された『死亡』『自害』の無機質な痕跡。
「…嫌だ!もう…嫌だ……みんな……こんなに早く亡くなってるの……?」
あまりにも残酷な記録の数々に、桃の声が絶望で震える。
放課後。
重い足取りでテントへと戻る二人。
行きで見せた甘酸っぱい空気とは打って変わり無言の沈黙だけが流れていた。
学園全体は、クラフト大会最終日の打ち上げに沸く熱気に包まれている。
すれ違う生徒たちの楽しげな笑い声は、今のふたりの冷え切った心中とはあまりにも正反対だった。全員が祭りの浮かれ気分に酔いしれており、二人がその手に禁書を抱えていることなど、誰一人として気づく者はいなかった。
バサッ。
無言のままテントの布をめくり、中へと入る。
「おかえり、ふたりとも……って、どうしたの?」
『なんだよ、二人で顔を真っ赤にして照れながら帰ってくると思ってたのにな?』
重苦しい雰囲気を察して首をかしげるトパーズと、テレパシーでからかうように笑おうとするルビー。だが、二人の硬い表情を見て、すぐにただ事ではないと察した。
「……禁書を持ち出すなんて危険だとは分かっていたけれど、これは、トパーズに見せておかなきゃいけないと思って」
蒼が抱えていた古い一冊の本を差し出す。その表紙を目にしたトパーズは、思わず息を呑んだ。
「……『異世界転生者生涯リスト』……?」
トパーズは受け取った本をペラペラと手繰り寄せる。
……短命。あまりにも、短い寿命。
ペラペラ……自害、自害、自害、死亡……。
無機質に書き連ねられた死の記録に、トパーズの顔から急速に血の気が引いていく。
事故や事件、そして『自害』の文字が埋め尽くすページ。
そして——ピタリと、指が止まった。
『インペリアルアンバー(35)——クイーンとしての職務を全う。過剰な実験に付き合わせるも、本人は子供や孫たちを気に入っている節があり、長生きしたと考えられる。30年後死亡』
「っ…………おばあちゃま…………っ!? 私たちはあの方から愛されていたのね……!!」
祖母と同じ魂の本物ではない別人の魂が自分たちを愛してくれていた事を知る、掠れた声が、喉の奥から漏れ出る。
「空気を読めなくてすまないトパーズその後も見て欲しい」
蒼がポツリと言う。
どんどん、インクが新しくなってきてる……。
トパーズは焦燥に駆られページをめくり——最後の行で指を止めた。
ダイヤ(16) —— 学生。学校に馴染めず、1年後に自害。
「……これが、一番最後のページだ……。ダイヤが死んだ記録で終わってる。僕や桃のはない、本物のジノが報告をサボってあそこで寝てるからね…」
掠れた声で蒼が呟く。
「つまり……今この世界には、僕と桃しか転生者はいないんだ……」




