真っ赤
「ねぇ、蒼……。そう言えば昨日、全部見るって言ってたけど間に合わなかったんだね……。せめて、間に合ってれば……」
——こんな、暗くてホコリっぽい禁書庫じゃなくて……もっと、ちゃんとした場所で聞きたかったのに……!
「っ……!?!?」
口から出かけた言葉の真意に途中で気が付き、桃は一人で頭が沸騰しそうなほど赤面した。
「やっぱり連日の作業だったから、疲れちゃってさ……。いや、言い訳だな。昨日大見得を切って言ったのが、我ながら恥ずかしいよ」
申し訳なさそうに眉を下げて苦笑いする蒼。
そんな真面目な返しをされて、桃はさらにパニックになる。
「ち、違うの! 今のは間違えたっていうか、その、違うんだってば!!」
顔を真っ赤に染め上げた桃は、両手をブンブンと振り回しながら必死に弁明しようとする。けれど、墓穴を掘れば掘るほど言葉は空回りし、誤魔化しすら成り立たない。
バサッ……!
パニックになった桃の袖が書架の端に引っかかり、一冊の重い本が床へと落下した。
「「これって…………」」
二人の視線が落ちた本へと注がれ、空気は緊張感へと塗り替えられた。
一方、テント内。
『見たか!? アイツらの顔!?? 最高だったな!!!』
限界を迎えて喉をやられているルビーは、声が出ない代わりに頭の中に直接届く激しいテレパシーで、可笑しそうに歓声を上げていた。
「ちゃんと見たわよ! あの[諦めた]ような蒼の顔! そこからどんどん真っ赤になっていくの……! 今思い出しても最高ね!!」
トパーズも声を上げて楽しそうに笑う。
『桃なんか途中から下向いたままだったぜ!? でも、耳まで真っ赤でさ!!』
「本当! 桃、最っ高にかわいかったわ〜! 帰ってきたらもっとからかいたいところね!」
二人はお互いに椅子を向け合い、声の出ないルビーの分も心の中で笑い声を交わしながら、がっしりと手を握り合って大仕掛けのイタズラを成功させた子どもたちのように喜んでいた。
バサッ。
不意にテントの入り口の布がめくられる。
「あらら。やっぱり、熟年夫婦じゃないの」
びくっ!!!!
一瞬で血の気が引き、勢いよく手を離すふたり。
「『おまえ!?!』」
ボコン!!!!
「医務官として病人に薬を届けに行ったらいないんだもん。部屋にいないなら取りに来るなりするんじゃないの〜?やりたくもない魔力感知もさせないでよね〜?ほら、喉と全身診るから、とりあえず脱ぎなよ?」
(言い方ってもんがあんだろ!!??)
「人形! 早く終わらせなさい! 私は外で待つわ!!」
バサッとイライラした様子でテントから飛び出していくトパーズ。
「ふぅ〜ん? 若いからか、献身的な看病のおかげか……だいぶ回復が良いねぇ。もっと色々と試したかったけど、次に僕に見せるのは一ヶ月後でいいよ。薬はまとめて出しておくから毎食後確実にね。……そうそう、この砂時計は記念にプレゼントしてあげる。これを見て、あの時の夜のことも思い出してよ」
ヘラヘラと砂時計を振るジノ人形。
(ふざけんな! 二度と思い出したくねぇ事を……!!)
ジノ人形から渡された砂時計を見つめ、握りしめた拳を震わせるルビー。
「まぁ、良かったんじゃない? 君はもう重症患者卒業だよ。じゃあね」
ひらひらと手を振りながら、ジノ人形はバサッとテントの布をめくって出て行った。
それと入れ替わるように、トパーズがテントの中へと足を踏み入れる。
「……っ!?」
まだ着替えの途中だったルビーと、バッチリ目が合ってしまった。
「っ……あ……! ゲホッ! ゲホッ……!」
不意の事態に焦ったルビーが思わず声を張ろうとして激しくむせ込み、トパーズは一瞬遅れて状況を理解する。
「つーーーー!!!!!!?????」
真っ赤になったトパーズは、弾かれたように慌てて背を向ける。
(見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった……!!)
脳内を猛烈なパニックが支配する。
ーートン(ノック一回こっち見て)
「見てですって!? 何言っ……あっ……」
恐る恐る振り返ったトパーズの視線の先で、無事に着替えを終えたルビーが、椅子の上で膝を抱えて丸まりながら顔を真っ赤にさせていた。
『ジノのやろう……早くぶっ壊れてくれねぇかな……』
「……そうね。明日、絶対にお父様に言って新しい医務官を連れてきてもらうわ……」
何を見たんですかね?




