行ってきなさい
トパーズはふと、かつて目にしたジノの[観察日記]の記述を思い出していた。
「……桃の入れ替わりは、子供を助けるため……。ローズの入れ替わりも、子供を助けるため……? サファイアは、ローズを助けるため……」
ポツリ、ポツリと溢れ出る言葉。
それが何を意味しているのかに思い至った瞬間、トパーズはキッと鋭い視線を蒼に向けた。
「蒼。……まだ、わたし達に話していないことがあるわね? あなた……何を願った時にここへ来たの??」
「びくっ!」と蒼の身体が大きく跳ねる。
(今さら何隠したって変わんねーだろ? 仕返しだ、言え)
ルビーが筆談の用紙を掲げ、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら蒼を追い詰める。
「っ……はぁ……。僕はあの時……本物の縫製機をローズに見せるために、琥珀や茜達と一緒に見学に行っていたんだ」
「これも見たことあるよ!」
自慢げに胸を張るローズに、蒼が微笑みかける。
「やっぱり、産業革命の初期くらいのものはローズも知っているんだね」
「ここの縫製機は、残っているものでもまだ動く貴重な物なんですって! だから絶対に触ってはダメよ! 絶対によ!……特に、茜!」
企画者である琥珀が釘を刺すと、いきなり指名された茜が不満そうに顔を顰めた。
「な!? なんで俺なんだよ!? さすがの俺でもそんなことしねーって!」
「これもこれも実際に見たことあるし、なんなら授業で似たようなの使ったことあるよー。将来、魔力の少ない私達は、こういう[さんぎょーかくめー?]の道具と魔道具を組み合わせて仕事することが多いからねー」
私知ってますけど? と言わんばかりにフフンと鼻を鳴らすローズ。
だが、次の瞬間、彼女はふっと視線を落とし、寂しげに呟いた。
「……でも、戻れる保証なんて、どこにもないんだけどね……」
「……っ、諦めるのか!? 僕は諦めてないぞ!」
蒼は思わず感情的になり、ローズの肩を強くだ掴んだ。
「僕は絶対に、絶対に諦めないぞ! ローズを帰すこともそうだ……! 桃のことを、僕は絶対に助ける……!!」
「蒼、そんなに熱弁しなくてもわかってるよ! 落ち着けって!」
急に熱くなった蒼を茜が焦って止めに入るが、蒼の勢いは止まらない。
「ずっと探し続ける……!! 絶対に、一生かけたって……!!!」
熱く叫んだその勢いのまま脚を滑らせ——蒼は「触るな」と厳重に注意されていた縫製機へと豪快に倒れ込んだのだった。
——現在。
「……ふぅ……やっぱりハーブティーは、桃の淹れたものが一番美味しいわね。魔法のお茶よ」
ーートントン(ノック2回イエスの合図)
「そ、そうかな……?」
うつむいたまま、みんなと目を合わせられない桃。
(ほら、言っちまえよ)
ニヤニヤと筆談で追い討ちをかけるルビーの文字が煽る。
ついに限界を迎えた蒼が、ガタッと勢いよく立ち上がった!
「っ〜〜〜!!! そうだよ! 僕は誰よりも桃が大切なんだよ!!!」
「……ぁっっ……!?」
叫んだ当人の蒼も、言われた桃も、首筋まで真っ赤にして勢いよく下を向いてしまった。
静まり返るテントの中、トパーズが可笑しそうに隣のルビーを見た。
「ねぇ、ルビー? わたしたち、あの2人に散々いろいろ振り回されたと思わない?」
(同感だ)
ルビーが無表情を装いつつ、速攻で文字を走らせる。
「とりあえず、わたし達すごーーーく疲れているの。わかるわよね?……でも、禁書庫にはまだ、わずかに読み切れていない本が残っているわ。ね? この意味、わかるわよね?……行ってきなさい? ふたりで」
にっこりと微笑みつつも、メラメラと復讐の炎を燃やすトパーズとルビー。
その圧に押された蒼と桃は、真っ赤な顔のまま何も言えず、逃げるようにテントを後にしていくのだった。




