バグ
「ルビー……お願い、隣にいてね」
真剣な顔でルビーを見るトパーズ。
視線の先にあるのは、今日まで学園に止めさせていた列車。
トパーズは先ほどかぎ針にかけた魔力感情感知を、もう一度行う。
(何も悪いことしてないのにー負の遺産なんて呼ばせないー助けてー生きてー帰りたかった帰れない帰してー返してわたしの子供はーまた企んでるー許さない)
「……あっ………あぐguuu………」
膨大な死者の念に精神を飲み込まれ、トパーズの身体が激しく歪む。
『トパーズ!!!! もういいもう戻ってこいもうやらなくていい』
脳裏で弾けるルビーの悲鳴のようなテレパシー。
「はひゅ…….ひゅhi…………」
もはや言葉になっていない。
『トパーズお願いだ戻ってきてくれ』
「ねぇ!!トパーズ!!?」
「トパーズ!君はトパーズだろ!?」
「はっ……はっ…うん…わたしひはとぱーず」
意識が暗闇の底へと引きずり込まれそうになるトパーズに、全員の叫びが飛び交う。
「ねぇ!!思いは魔力を超えるんでしょ!?トパーズ!?戻ってきてよ」
『トパーズお願いだ戻ってきてくれ……!!』
「トパーズ!!明日君のお父さんに会うんだろ!?」
「っ……はあ!!!!!」
トパーズの目に光が戻る。
『ダメだもう禁止だ!これ以上トパーズが苦しむの見てられない』
ルビーがトパーズをかばうように前に出ながら、固い拒絶の意思を響かせた。
「みんなありがとう……もうやらないわ………死者の魔法で間違い無いわ、しかも膨大な人数の。
「とりあえず2人とも、テントで横になってくれ。ぼくはルビーを……」
蒼の冷静な声に促され、トパーズはふらつく足取りでテントへと向かった。
「トパーズ、行こ」
「うん……」
少しして、温かいお茶が淹れられた。
「2人は休んでいていいから」という桃の言葉に、ルビーは『さんきゅー』と短く返し、トパーズは「ありがとう……はぁ、本当に素敵なお茶……」とカップの温もりにそっと息をついた。
少し呼吸が落ち着いたところで、蒼が真剣な眼差しを向ける。
「トパーズ、話せるかい?」
その問いに答えるように、隣に座るルビーの手が、トパーズの手をキュッと強く握りしめた。
——離さない、と言わんばかりの強い力。
「ええ……みんなのおかげで、わたしはここで生きているわ。もう大丈夫よ」
トパーズがかすかに微笑むと、蒼は小さく頷いて本題に入る。
「僕は魔法にはからきしだから教えて欲しい、トパーズ。例えば、作ったこのオルゴールに『幸せな音色しか出せない』魔法をかけたとしよう。でも、この道具のせいで運命が変わったって、1,000万人が恨みつらみを唱えたら……どうなる?」
「そんなの……幸せな音色なんてもう出せないどころか、酷く呪われるわ」
「でも、僕たちが作ったこれは、呪いのものじゃないんだろう?」
「——純粋な誰かのための気持ちも、たくさんの温もりも詰まっているわ。」
「そしたら、このオルゴールはどうなる……?」
トパーズはわずかに息を呑み、そして首を振った。
「どうなるか、予測も……。まるで『バグ』としか……っ!? まさか、ふたりがこの世界に入り込んだ『入れ替わり』も、このバグが原因だと——!?」
答えはわからない。
けれど、魔力を奪われ、拷問され、殺されていった無数の死者たち。
彼らの血を吐くような怨念、呪い。
そして、「助けてくれ」「元に戻りたい」「帰りたい」という悲痛な祈り——。
それらの膨大な情念が残された遺産に宿り、支配者たちの作ったおぞましいシステムを、完全に『バグ』として破綻させたのだ。
——思いは魔力を超える。
絶望的なまでの死者の思い。
殺してやりたい、一生恨む
でもその人勝手に転落してるのって意外とあるある、自分の手汚さなくてよかったねトパーズ!




