プリン
「……っく……」
声は出せずとも、小さな吐息を漏らしながらルビーはゆっくりと起き上がった。
ふと横を見ると、トパーズがお茶を淹れてくれているところだった。
ふわっと優しく甘いハーブのいい香りが、部屋いっぱいに心地よく漂う。
「あら、おはようございます、ルビー。もう夕方ですわ。二人は食事を取りに行っていますから、戻るのを待ちましょう」
自分の部屋で、大好きな人がお茶を用意してくれている――。
そう言えばかつて、サファイアが言っていた。
【こういうのを『福眼』って言うんだろうな】
まさにその通りの噛みしめるような幸福感に浸っていた……のに。
「はぁ、早く口開けなって。もう治療されるの慣れてきてるんでしょ? 僕が来たら口開けて待つくらいできない?」
(お前……! 本当にタイミング最悪だな!!!)
ルビーの殺気立った視線を受け流しながら、ジノ人形はニヤニヤと覗き込んでくる。
「……ふぅ〜ん? 魔力回路はほぼ治ってるね? あ! 元々魔力なんて無いに等しいんだもんな! そりゃ治りも早いか!」
ケラケラと底意地悪く笑うジノ人形。
「もっと時間かかると思ったけど、これならあと2週間もあれば話せるようになるんじゃない?」
(……よかった、話せるようになるのか!)
ジノのウザさも吹っ飛ぶほどの朗報に、ルビーの胸がパッと明るくなる。
すると、ジノ人形に向かってトパーズがすぐさま身を乗り出してきた。
「身体の方はどうなんですの!? もう体を動かしてもよろしいのですか? 食事はいったいどうしたらいいんですの!?」
「歩くくらいは好きにしなよ〜。でも重いもの持ったり走ったりしたら、また喉から血がドバッと出て終わりだからね? あと食事〜?食堂のおばちゃんに詳しく話してるから気にしなくていいよ、まぁ喉痛い時の食事だと思っとけば??あっ、そうだマスター様ぁ? 時間切れになりそうだよ??」
ボコん、と軽快な音を立ててトパーズから手が離れる。
「はいはい、じゃあ僕はこれで……ん?」
去り際にふと視線をやったジノ人形が、ぴたりと動きを止めた。ベッドが二台ぴったりと並べられ、二人で寝ていた痕跡がくっきりと残っている。
「やっぱり熟年夫婦じゃん」
「っ〜〜〜〜〜〜!!! 早く出て行きなさい!!!!!!」
真っ赤になったトパーズの怒号を背に、ジノ人形はケラケラと笑いながら姿を消した。
それからしばらくして、ガチャリと部屋のドアが開く。
「ごめんね! 待たせちゃった! 食堂混んでてさー」
両手いっぱいに温かい料理を抱えた桃が、パッと明るい声を上げて部屋に戻ってきた。
「まあ、あの長蛇の列の中に手すりやテーブルを飛び越えていく桃がいたから、これでも早くなった方なんだよ」
続いて入ってきた蒼が、やれやれと肩をすくめて息を吐く。
「見て見て〜! 食堂のおばちゃんが、ルビーにってプリンくれたんだよ!!!! はぁ〜……いつ見ても美味しそうだねぇ……」
うっとりとプリンを見つめる桃。
(あ! 絶対食うなよ!!!!)
ルビーが声にならない叫びで鋭く睨みつけると、トパーズがくすりと微笑んだ。
「食べてはいけませんよ、桃。ふふ、でもプリンは魅力的ですわね……」
口元に手を当て、じゅるりと喉を鳴らすトパーズ。
(もう一人で食えるから! 絶対お前らにはやらねぇからな!!!)
ルビーが必死にプリンをかばうような仕草を見せ、部屋の中はドッと温かい笑い声に包まれた。
久々に四人で囲む食卓。他愛のない会話と笑い声が、静かに部屋を満たしていく。
食事が終わり、淹れたての温かいハーブティーを全員で口にし、一息ついたところだった。
トパーズがカップをそっとテーブルへ置き、真剣な眼差しで蒼に向き直る。
「さて、蒼。私はもう大丈夫ですわ。昨日、禁書庫で何を見つけたのか……話してもらえますか」




