完全回復
すぅすぅ、と定期的に耳元に聴こえてくる寝息。手元には、やけに温かい相手の手の感触。
心地の良さに、いつまでもここにいたい気分だった……。
――そう言えば、昨日の蒼の禁書庫での話は……? はっ!!
思考が現実へと引き戻され、トパーズは飛び起きるように目を見開いた。
「つつつーー!!!?!?!?!??」
視界のすぐ先、隣のベッドには――すっかり穏やかな寝息を立てているルビーの顔があった。
「なっ……!?」
慌てて手を離し、頭から湯気を出す勢いで赤面しながらベッドの床へと転がり落ちる。髪の毛一本一本まで真っ赤に染まるほどのパニックだった。
「あ、おはよ! トパーズ! ちゃんと休めた?」
「な、なんなんですのこの状況は……ッ!!」
「砂が落ちきりそうだったから急遽、仕方なくそうなってしまってな」
「いやー本当、仕方ないですなぁ。ねぇ、蒼さん」
「そうだねぇ」
あからさまな棒読みで返す桃と蒼。トパーズはわなわなと全身を震わせた。
「わたくしの……乙女の純情を弄びましてのね……っ!?」
勢いよく――しかし、寝ているルビーの体を絶対に踏まない絶妙な軌道で、トパーズは床を蹴って飛び退いた。
だが、その着地を狙いすましていたかのように、背後から影が迫る。
ぎゅっ――!
「捕まえた。魔力も……回復した?」
背後から回り込んできた桃が、逃がさないと言わんばかりにトパーズをしっかりと抱き止める。
「っ………ひどいですわ……こんなの、荒療治ですわ……っ!」
暴れようとしたトパーズだったが、桃の温もりに包まれるうちに、自分の体に魔力がみるみる満ちていくのを実感する。息を整え、トパーズはふっと小さく息を吐いた。
「でも……完全回復、ですわ……」
「よし、元気になったね!」
「お礼なんて、絶対しませんからね……っ!」
耳の先から指の先まで真っ赤に染め上げながら、それでも気高さを保とうとするトパーズの姿に、部屋中が温かい笑い声に包まれるのだった。




