新しい仕事
「あっ! もうお昼の時間過ぎてる! まだ食堂ギリギリ間に合う! 走るよ蒼!!」
「ちょっ……! 走るならもっと早く宣言してえええぇぇぇぇ!?」
旋風のように部屋を飛び出していった桃と、首根っこを掴まれるようにして強引に連れ去られた蒼。
ドタバタと遠ざかっていく騒がしい足音を見送りながら、トパーズは思わず呆れたように息を吐いた。
『「台風みたいですわ」だな』
ベッドの上で、ルビーが心の中で呟いた言葉が、見事にトパーズの呟きと被る。
二人同時に顔を見合わせ、トパーズはふふふ、と鈴を転がすような愛らしい笑い声をこぼした。ルビーもまた、へっと鼻を鳴らして照れくさそうに口元を緩める。
「さて……わたくしはお茶でも淹れますわね」
作業の片付けを終え、立ち上がろうとしたトパーズ。
だが、その手首を、ルビーの手がキュッと引き留めた。
そのままぐいっと引っ張られ、トパーズの体は優しくベッドの上へと倒れ込む。
「なっ……ルビー……!?」
『オレの使った後で言うのもなんだが、ベッドで休むのがトパーズの新しい仕事だ。寝るまで手、繋いどいてやるから』
伝わってくる不器用で真っ直ぐな熱量。
トパーズは頬を一気に朱に染め、パタパタと手を振り回した。
「こ、子供じゃないんですのよ……っ!?」
抗議しようとしたトパーズだったが、握られたルビーの手の心地よい温もりに、ぎゅっと胸が締め付けられる。抵抗する力はあっさりと抜け、トパーズはルビーの手を両手で包み込むようにギュッと握りしめた。
「……っ……でも、あたたかいですわ……」
この3週間、誰よりも無理をして自分たちを支えてくれた大好きな手。
緊張の糸が切れたトパーズの瞼は急速に重くなり、あっという間に規則正しい寝息を立て始めた。本当に気持ちよさそうに、安心しきった穏やかな寝顔だ。
ルビーは愛おしそうに目を細めると、空いたほうの手でトパーズの柔らかい髪や頬を、優しくそっと撫でた。
言葉はいらない。ただ、穏やかな愛おしい時間だけが部屋を満たしていく。
――そう、ドアの外で。
パンを口に咥えた桃と、息を切らした蒼が、二人並んでニヤニヤしながらこの光景をバッチリ覗き込んでいることに、ルビーが気がつくまで。
あと、10秒――。




