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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ぶらさがるもの

 男は夜に竹藪を歩いていた。

 なんでそんな場所を、と思うかもしれないが、竹藪を通ると近道になるからだ。


 竹藪の中は街灯もなく真っ暗にはなるが、その中の道は十メートルあるかないかくらいの長さだ。

 それで十分以上の近道ができるのだ。

 通らないわけがない。

 しかも、入口から出口まで一本道で入口と出口付近には街灯の明かりが漏れてきている。

 竹藪の中自体は暗くとも、それが目印になり特に明かりがなくとも通ることは容易なのだ。


 まあ、不気味ではあるが。


 十メートルくらいとはいえ、暗くはあるが竹藪なので密度がなく割と遠くまで見渡せてしまう。

 それがまた不気味なのだ。

 竹と竹の空間に広いスペースができている。

 闇で何も見えない闇だけに、不安をよぎらせるものなのだ。


 そんな闇の中に、男は何かがぶら下がっているのを見つけてしまう。

 長く大きく、ちょうど大人一人くらいが入りそうな、麻布のような袋だ。


 それが竹にでも吊るされているのか、ぶら下がっているのだ。


 男はそれを見た瞬間、体をビクつかせる。

 声を上げなかったのを、男は後々振り返って褒めてやりたいくらいだ。


 もし声を出していたら、どうなっていたかわからない。


 男はなんでこんなものが、と思いつつも、関わりたくないという気持ちのほうが大きかった。

 何か底知れる恐怖を、その長く大きい袋から感じていた。


 ちょうど大人が入る程の大きさ。しかも、吊り下げている縄は人間でいうところの首のあたりに巻き付けてあるのだ。

 それが不気味で不吉ではないわけがない。


 男はなにもみなかったことにして、静かにその場所から立ち去ろうとした。

 だが、何かを踏み男は、イタッと反射的に声を上げてしまう。

 道に転がっていた石でも踏んだのかもしれない。


 声を上げた瞬間だ。

 まだ振り返ってもいないのに、男は強烈な視線とゾワゾワとした寒気を感じる。

 男がゆっくりと振り返って、あの長く大きい袋のほうを見る。


 袋はゆっくりと回り、いうなれば、だが、男の方を向いた。

 少なくとも男にはそのように感じた。

 その袋に正面があるかないか、それはわからない。

 だが、強烈な、刺すような視線を男はその袋から確かに感じたのだ。


 男は吊るされている、そう思っていた袋が男のほうに向かい移動し始める。

 それも、吊るしてある物自体が男に近づくようにだ。


 おかしい点があるとしたら、吊るしてある縄は空へと伸びているのに、それを結ぶような、吊るすような、そんなものがどんなに見上げても一向に見当たらないということだ。


 男は大声で悲鳴を上げて、竹藪の道を走る。

 もつれそうになる足を何とか動かし、必死に走る。


 そして、転げ出るように竹藪から出て、舗装された道路に出る。

 実際に道路に出た男は転げてしまい、そのまま、竹藪のほうを見る。


 長く大きい何かに吊るされた袋は、竹藪と道路の境目で止まっている。

 そして、やはりそれを吊るしている縄はどこまでも高く、まるで夜空から吊るされている様にすら思えた。


 それと、街灯に照らされてはじめてわかる。

 袋を縛り上げている場所を首とするなら、そこから上の部分、顔と呼べるような場所、目の位置と口の場所だけ、その袋が少しくぼんでいるのだ。

 男はその袋の中身が何か知らないのに、それが顔のようにも見えてしまう。


 男は声にならない声を上げ、その場で動けなくなる。

 しばらくして、長く大きい袋は空へと、夜空へと吊り上げられていき、見えなくなる。


 その後しばらく道路に転んだまま放心していたが、男は無事に家に帰ることができた。

 その日は逃げるようにベッドの中へもぐりこみ震えながら寝た。


 だが、朝起きて男は再び恐怖する。


 男の部屋の中央に、身に覚えのない長い縄が置かれていたからだ。

 その縄を男は竹藪に捨て、その竹藪には近づかないことにした。


 だが、翌日の朝に、部屋にあの長く大きい袋が自分の部屋の真ん中に置かれていた時、男は悟ったのだ。

 もう逃げられないのだと。







ぶらさがるもの【完】

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