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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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むし

 ふと、女が庭の手入れをしていると、庭に黄色い実がなっているのに気が付く。

 柑橘系の果実で、大人のこぶしより少し大きいくらいだ。


 夏みかんと近縁種の柑橘で、既に収穫したはずだった。

 家の庭になる果実で食べたとしても、おいしくはない。

 ただ木の負担にになるので、実が出来たら適当なところで全部取ってしまっていたはずだった。

 それが残っていたのだろう。


 大きく熟れているようにも見えるが、鳥にでも突かれたのか、果実に大きな穴が開いている。

 そこから甘酸っぱいいい匂いが漂っている。


 熟れれば今果実もおいしいんじゃないのか、そんなことが思えるような良い匂いだ。

 まあ、鳥に突かれ食べられた実を食べようとは、女も思わないが。


 ちょうど背伸びをすれば手が届きそうな位置だったので、それも取ってしまおうか、と女は思い背伸びをして手を伸ばす。

 その時だ、何かを感じ取ったのか、果実の鳥に突かれ空いた穴から黒い何かが顔を覗かせる。


 黒い幼虫だった。


 真っ黒で艶はない。

 小さな数十ミリ程度の幼虫だ。


 女は手を伸ばすを辞める。

 虫は苦手だ。


 しかも、その幼虫は抵抗するように、前足とでもいべきものを、必死に動かしている。

 女は、お前の家なのね、そっとくしておくから顔を見せないで、と思い、その果実から離れる。


 それでもその黒い幼虫は興奮したように、その身をくねらせている。

 あまりにも身をくねらせるので、勢いあまってその身から落ちてしまう。

 ポトリと地面に置いた黒い幼虫を女は見失う。


 地面も地面でどころどころに雑草も生えているし、地面に落ちたら、そもそも保護色となり見つけられないだろう。

 見失うのは当然だ。


 と、そう思っていたがのだが、女は黒いその幼虫を見つける。

 しかも一匹や二匹ではない。何匹もだ。

 今も上から、果実からポトポトと黒い幼虫が落ちてきている。


 慌てて女が果実のほうを見ると、開いた穴から無数の黒い幼虫が所狭しと湧き出てきていたのだ。

 何の幼虫かは知らないが、さすがに無視できる数ではなかったし、今も果実を覆いつくす勢いで黒い幼虫が果実の穴から湧き出て来ているのだ。


 女は慌てて殺虫剤を取りに行って、果実に向かい殺虫剤を吹きかけた。

 落ちた虫達にも殺虫剤の缶から噴射される薬剤を散布する。


 辺り一面、のたうち回る黒い幼虫で溢れかえる。

 虫が苦手な女は一心不乱で黒い幼虫に殺虫剤をかけまくる。


 だが、少し経って気づく。

 おかしい。

 あまりにも幼虫の数が多すぎる。

 木になっている果実よりも、黒い幼虫の合計のほうが明らかに体積が大きい。

 辺り一面殺虫剤を受けて、のたうち回る黒い幼虫だらけになっている。


 しかも未だに、果実からはボトボトと大量の幼虫が湧いて出てきているのだ。


 ついには殺虫剤の缶が空になってしまう。

 替えの殺虫剤もなかったため、女は近くのドラッグストアに走る。

 そして、いくつもの殺虫剤を買って来る。


 だが、女が戻ってくると地面に落ちているのは、鳥に食べられて穴が開いた果実のみだ。

 黒い幼虫の姿などどこにもない。


 生きている幼虫は逃げられたかもしれないが、殺虫剤を浴びて死んだ幼虫も多いはずなのにだ。

 訳が分からない。

 女はおっかなびっくり地面に落ちている果実を拾い上げ、それをゴミ袋の中へと投げ入れた。


 それからだろうか。

 女は度々大量の黒い幼虫が湧き出る幻覚や夢を見るようになる。

 それは徐々に女に近づいて来るように湧き出て来ていて、しまいには自分の体から湧き出て来る幻覚を見るようになった。


 女は精神科にかかっているが、改善の余地は今のところない。





むし【完】

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