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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あめのひさま

 その日は朝から雨だった。

 女は雨で憂鬱になりながらも買い物へ行く。


 買い物に行ったショッピングモールのイートインで女は震えている老婆を見つける。

 あまりにもブルブルと震えているので、女は大丈夫ですか? と声を掛けた。


 するとその老婆は、アメノヒ様が来る…… アメノヒ様が来る…… という言葉を繰り返すだけだった。


 雨の日に様付けしているのが不思議だ。

 発音も、雨の日のイントネーションに、様付なのだ。


 女には意味が分からない。


 大丈夫ですか? 何かお困りですか? とさらに声を掛けると、老婆は女をキッと睨む。

 あまりにも鋭く睨まれたので、女が怯むと、老婆は目を開き、関わっちゃいけん、雨が上がるまでここにいるんだよ、と女の両腕を掴みながらそう言った。


 女も変な人と関わってしまった。

 そう思い、曖昧に返事をして、その場を後にした。


 女が買い物を済ませ、ショッピングモールから出ようとした時だ。

 ガラスの自動ドアの向こうに、背の高い女性が見えたのだ。

 ゆうに二メートルは超えるほどの身長だ。


 黒い髪、白い肌。白いワンピースを着て真っ赤な傘を差して、ショッピングモールのほうを凝視している。


 その近くを男性が通るが、その男性はその背の高い女性のことを気にもかけていない。

 身長だけでも目を引くはずなのに、まるで気づいていないかのように通り過ぎていく。


 女はなんとなく、あれが老婆の言っていたアメノヒ様なのではないか、そう思えて仕方がなかった。

 その女性の姿があまりにも異様に思えたので、女は急いでモール内のイートインへ行くのだが、もう老婆の姿は見当たらなかった。


 イートインからもガラスで外が見えるから、そのせいかもしれない。

 女はモール内を歩き、なるべく外から見えない場所、なおかつ人通りが多い場所で雨が止むのを待つ。


 だが、雨はなかなか降り止まない。


 これ以上待っていれば日が暮れてしまう。

 そう思った女はモールの出口に様子を見に行く。

 そこには背の高い女性の姿はなかった。


 女は今がチャンスだと、モールから出ようとした時だ。

 出口の側面のガラスに、あの背の高い女性が張り付いていたのだ。


 女は逃げるようにモール内に逃げ帰った。


 その時女は見てしまったのだ。

 背の高い女の白い肌の下に、水死体のような顔がいくつもいくつも浮かんでいたことに。

 その中に、あの老婆の顔を見たわけではないが、もしかしたらあの怪異か何かに既に取り込まれてしまったのでは、そう考えた女は身の震えが止まらなくなる。


 結局、女は雨が完全に止むのを待ってから、家に帰った。

 家に帰ってからでも女の震えは止まらず、あの白い肌の下に、水死体のように浮き出ているいくつもの顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。


 それからだ。

 女は、危険な雨の日と、そうではない雨の日の違いが、なんとなくわかるようになった。

 危険な雨の日はどこからともなく臭うのだ。

 とても生臭い臭いが。


 そして、危険な雨の日のことを、アメノヒ様と女も呼ぶようになり、その日は決して外には出ることはなくなった。






あめのひさま【完】

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