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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ちか

 男は驚いていた。

 前々から家の中で隙間風を感じる。そう思っていたが、どの場所から隙間風が吹いてくるのか分からなかったのだ。

 それがひょんなことから判明した。


 古くなった配管の修繕するために壁を剥がした時だ。

 壁と壁の間に地下へと続く木製の梯子が発見されたのだ。


 男が住むのは戦前からある古い家だ。

 防空壕か何かで、造りはしたものの使わなくなったから壁に埋めたのかもしれない。

 というのが男の父親の意見だ。


 配管工事の業者が言うには、古く使われていない地下室は密閉されていると、酸素がなかったり、有毒なガスがこもっているかもしれないから危険とのことだ。

 少なくともこの梯子を下りて調べるには、空気を送る機械が必要だ、とのことだった。


 梯子の先は真っ暗な闇が続いている。

 懐中電灯で照らすと辛うじて地面が見える。

 コンクリートの床ではないが、自然の岩や土というわけではない。

 人工的に均された土間のように思える。


 梯子の先から、湿った冷たい風が流れ出てきている。

 なので、男はどっかに風の通り道があるんだ。

 そう思っていた。


 ただ、明日には業者の言う風を送る機械というのが準備できるそうなので、男もそれを待つことにした。

 業者が言うには、だが、配管用のスペースなのかもしれない、とのことだ。

 確かに壁の中の配管も地下へと向かっている。

 防空壕がどうのこうのというよりも説得力はありそうだ。


 急な地下への梯子が見つかったことで、配管の工事も一時中断され、その日は業者も帰っていった。


 壁は剥がされたままで、梯子が続く地下への入り口には一応ブルーシートが掛けられただけの状態だ。

 男がそれをなんとなく見ていると、ブルーシートが揺れる。


 やはり風が吹いているのだ。

 

 男はなんとなくブルーシートをめくって見る。

 そして、悲鳴を上げる。

 梯子を掴む真っ白い手があったのだ。


 男の悲鳴に、家族が集まってくる。

 白い手もスッと音もなく闇へと消えていく。

 男が白い手を追って梯子を下りようとしたのを父親が止める。

 男が泥棒かもしれない、とそう言ったのだが父親は、あの白い手は自分も見た、どう見ても人間の手には見えなかった、そう言ってきたのだ。


 男も思い返す。確かに人の手にしてはやけに白かったと。

 その日は梯子の上に板を置いて、重しを置き、寝ることにした。


 次の日、業者が来て空気を送る機械、業務用の送風機を持ってきて地下室の探索が始まる。

 ついでに最初からあった木製の梯子は既にボロボロで人間が乗れるような状態ではなかった。

 昨晩、あの手を追って梯子を使っていたら、大変なことになっていたかもしれない。


 新しい梯子を使って業者の人間が地下室へと降りていく。

 男も地下室へと降りる。


 地下室は土蔵造りだった。

 しかも、かなり深い。

 業者の言う通り配管スペースでもあったが、配管設備ができる前から存在しているんじゃないか、という話だった。

 配管を取り替える作業で、ここを使えるならかなり楽になる、という話だ。


 構造的には単純なつくりで、長方形の部屋と細い廊下があるだけだった。

 ただ内部はかなり荒れている。

 恐らくはネズミの糞、そう思われるものが多く転がっていた。

 蜘蛛の巣なども多くあり、やはりどこかで外と繋がっているのだと男には思える。

 細い廊下は結構長くまっすぐ続き、男の家の近くにある用水路へと続いていた。


 続いていた、というのは少し違うかもしれない。

 廊下の先は壁になっていて、その上部に鉄格子がはめられていて、用水路の崖上から眺められる、というのが正しい。

 鉄格子の窓も五センチ程度の物で、大人だと手も出せないようなものだった

 それ以外に繋がっている場所もなく、隠れられるような場所もない。


 では、男が昨晩に見た白い手はなんだったのか。

 それは結局のところ分からない。

 業者に頼み、重く頑丈で鍵の掛かるハッチを取りつけてもらい、その穴は封じてもらうことにした。

 業者が言うには、配管工事に使うならうってつけということだ。


 ただ、それから稀にだが夜に音が鳴るようになった。

 ハッチを内側から叩くような、そんな音が夜な夜な聞こえて来るのだ。






ちか【完】

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