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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ごぽごぽごぽ

 ゴポゴポゴポと配管の中を水が流れる音がする。

 当たり前だ。

 湯船の栓を抜いたのだから。


 当たり前じゃないのは、その音がいつまでたっても鳴り止まないことだ。

 もう十分以上そんな音を聞き続けている。

 男は首を捻る。

 そして、風呂場まで見に行く。


 湯船の水はもうすべて流れ終わっている。


 音が鳴り続けるはずがない。

 無論、マンションなどではあり得るかもしれないが、男が住んでいるのは一軒家だし、他に水を流しているということもない。


 湯船の栓の抜けた黒い穴からは、やはりゴポゴポゴポと水が流れている音がする。

 それと同時に嫌な臭いが、硫黄臭とでもいうのか、卵の腐ったような臭いがしてくる。


 そこでやっと男も配管の中を液体が逆流しているのではないかと気づく。


 湯船の栓をしたところで、風呂場の排水溝からあふれ出る。

 下水が逆流してくるのであれば、湯船のほうがまだマシだ、と男は考え、湯船の栓を開けたままにした。


 次第に音は大きくなり、硫黄臭も強くなってくる。


 男は風呂場から離れ、風呂場のドアを閉じて様子を見る。

 洗面所の洗面台の排水口からも同じような音が聞こえ始める。


 さすがに男も慌て始める。

 だが、ゴポゴポゴポと音が鳴るだけでいつまでたっても下水があふれ出てくるようなこともない。

 鳴りやまない音に男が狼狽えていると、急にピタリとゴポゴポゴポという音が鳴り止む。


 急な静寂。


 どうしても耳を澄ましてしまう。

 そして、それは聞こえてきたのだ。

 歌だ。

 童謡だ。

 夕焼けを歌うあの有名な童謡だ。


 それが洗面所の顔洗い場の排水口からうっすらと聞こえてきたのだ。

 もちろん、お風呂場の排水口からもだ。


 男は訳も分からないのに寒気が全身に走る。

 なにか、下水道から、とても良くないものが上がって来ている。

 そんな気がしてならない。


 けれども、小さな、かすれるような声で、ここじゃない、と聞こえてきて、童謡も聞こえなくなった。


 男は未だに寒気は収まらないが、ここじゃない、という言葉に、安心してしまう。

 少なくとも、下水道から上がってきたものが求める場所ではなかったのだから。


 しばらく時間が経ち、落ち着いてから風呂場の様子を見る。

 特に変わったところはない。


 ついでにと湯船の様子を見て、男はギョッとする。

 湯船の排水口から黒く長い髪の毛が放射状状に伸びていたのだ。


 男が大きな悲鳴を上げると、その髪の毛はゆっくりと排水口の中へ引き込まれて行った。


 それからだろうか、よく風呂場の排水管が詰まるようになる。

 工事の人の話では、異様に長い大量の髪が詰まっている、ということだ。


 排水口から硫黄のような臭いがする日は、男は風呂場どころか水場に近づくことはなくなった。







ごぽごぽごぽ【完】

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