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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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よざくら

 男が仕事の帰りに大きな公園のそばを歩いていると、一本だけまだ花を咲かせている桜の木を見つける。

 もう五月にもなろうというのに、随分と遅咲きの桜だ、と男は思った。


 その日はそれだけのことだ。


 だが、次の日の朝、男が仕事へ行くときに昨晩と同じ道を通る。

 のだが、昨日咲いていた桜がどこにもない。

 昨晩は、あれほど咲き誇っていたのにだ。

 雨が降ったわけでもない。

 風が強かったわけでもない。

 それ以前に、桜の花びらすら、辺りには散っていない。


 見間違えだったか、と男は思ったが昨晩の夜桜はとても美しく幻想的で、鮮明に覚えている。

 確かにこの辺りから見えていたはずだと、その場所に立つのだが、「どういうことか、男の記憶では夜桜を見た場所は、そもそも木すら生えていない。


 どういうことなんだ、と男は思いながらも、仕事へと向かう。

 その日の帰りだ。

 少し遅くなりはしたが、同じ道を使い男は帰る。


 そうすると、やはり幻想的な夜桜が咲き誇っているのだ。


 男は見間違えじゃなかった、と思う。

 朝は何だかんだで忙しくて、見つけられなかっただけだと、そう考えた。


 そして、男は公園内に入り、近くでその桜を見ようと近づく。

 これだけ見事な桜なのだ、出来ればスマホで写真も撮っておきたい。


 ある程度近づくことで、というか、通りからは木の影になり見えてはいなかったが、桜の木の元に誰かが立っている。

 女性だ。

 黒い着物で髪の長い女性が、桜の木に手をついて立っている。

 夜も遅いのに、と男は思いつつも、どこか幻想的なその光景を目に焼き付ける。

 人がいるので写真を撮るのは失礼か、そう思いスマホをしまい、男は桜の木に近づいた。


 あと数メートルというところで、男は気づく。

 桜の木に触れている手は骨だけなのだ。


 白くはない。

 むしろ深い緑色と黒色に汚れてはいるが、それが骨だと、肉どころか皮なども一切ないものだとわかる形状をしている。

 よくよく見れば、着物も黒い色ではなく、黒くかびて汚れているのだと分かる。

 まるで長い間地中にでも埋まっていたかのような、そんな汚れ方だ。

 それを見て男は一つの言葉が頭をよぎる。


 桜の木の下には死体が埋まっている。


 そんな言葉をだ。

 男はゆっくりと息を飲み、静かに後ずさりして桜から遠ざかった。

 幸い、骨となっている着物を着た女性は男に気づくことはない。

 ただ桜に手をつき、一点を見つめたままだ。


 その顔を男が見てはいないが、恐らくは黒髪から覗いているその顔は髑髏なのだろうと容易に想像できてしまう。

 男はその今となっては性別もわからないのだが、その女性に後ろから近づけたことに感謝しつつ、その場を静かに離れていく。

 通りまで戻り、もう一度桜の木の方を見るのだが、もうそこには桜の木は存在していなかった。


 男は走って家まで帰った。

 体験したことがあまりにも衝撃的だったので、男はその日、眠ることもできなく、目を閉じるとどうしてもあの光景が浮かび上がってしまっていた。


 翌日、早めに家を出て、男は小さな日本酒とお饅頭を買い、夜桜があった場所に置いておいた。

 そして、これで許してください、と手を合わせた。


 それ以降、男はその公園に近づくことをやめた。

 経緯などいろいろ気になりはしたが、その公園のことを調べることもしなかった。


 ただ稀に男の周りでフワッと桜の花の匂いが香るときがある。





よざくら【完】

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