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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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みんと

 女が買い物帰りに歩いていると清涼感とでもいうべきものが香ってくる。

 ふと匂いの方を目を向けると、青々とした草が生い茂った庭が見えた。

 一面に緑の草、恐らくはミントが庭一面に生えている。

 恐らくは手入れされていない。

 空き家なのかと思ったがそういうわけでもない。

 家屋の方には多少なりとも生活感が見て取れる。


 ただ、間違いなく庭は手入れされておらず、ミントが我が物顔で生えていた。

 そこから清涼感のある匂いが漂ってくるのだ。


 繁殖力のある草だから、こういうこともあるかと、女は思った。

 思い返せば数年前からこの家はこんな感じだ。


 それからしばらくして、その家にパトカーが何台も止まっているのを目にした。

 何かあったのだろうか。

 女は集まり、井戸端会議を開いている主婦たちの話を盗み聞く。

 どこまで正しい情報か分からないが、概ねこんな話だった。


 この家には年老いた母と息子が住んでおり、息子はいい歳なのに働きもせず母の年金を頼りに暮らしていた。

 いつしか母は死んだが、息子は年金をもらうためか母の死を隠すために死んだ母を庭に埋めた。

 更に腐敗臭を隠すために庭一面にミントの種を蒔いたというのだ。


 確かに清涼感はあったが腐敗臭を打ち消せるものなのだろうか、女には疑問だった。

 まあ、ただの噂話だと、女はそう思う。

 そう思うのだが、確かにその家の庭にはブルーシートが掛けられて中が見えないようになっていた。

 それを見た女も噂が本当のことのように思えてしまう。


 事実はどうあれ自分には関係ない。

 女はそう思った。


 その夜、女は夢を見る。

 夢はあの庭が一面ミントが繁殖していた家の庭だ。


 生い茂るミントの真っただ中に、腰の曲がった老婆が立っている。

 老婆の顔は怒りに歪み、よくも掘り返してくれたね、と憎々しげに女に向かいそう言ってきた。


 女はその言葉を聞いて目が覚める。

 なぜか女の寝室にはミントのあの清涼感が香ってくる。

 女はゾクゾクとしたものを感じはするが、自分が掘り返したわけではない。


 なんで自分の、通りかかっただけの者の夢に出てくるんだ、と女は理不尽に思った。

 ただ、どうも夢に出て来られたのは女だけではないようだった。

 その夢を同時にたくさんの人が見たのだ。


 噂が広がる。

 それはやはり憶測でしかない。

 息子は年金が欲しくて、母を庭に埋めたのではなく、母の頼みで庭に埋めたのだと。

 そんな美談的な噂が数日後には広がっていた。


 その噂が本当かどうか、女には確かめる術はない。

 ただ、女の部屋のベランダにあるプランターに、植えた覚えのないミントが生えていたことだけは事実だ。


 女にはそのミントを雑草として毟るか、育てるか、判断をしかねている。

 判断を間違うと、あの老婆に呪われそうで怖いからだ。





みんと【完】

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