かえる
女が帰宅途中、閉店した昔ながらの店舗の軒下に大きな蛙がいるのを発見する。
濃い緑で、黒と金色の模様がある大きく立派な蛙だ。
蛙が出るにはまだ早い時期だ、と女は思いつつも、その大きな蛙を見る。
威風堂々としていて、女が近づいても逃げもしない。
ただたまに口元を動かしている。
よくよく見ると蛙がいる付近に、土でできた小さな塚のようなものができている。
蟻塚にも見えるが、日本で蟻塚など見たこともない。
外来種の蟻なのかも、と一瞬思ったが、女にできることはそもそもない。
それに蟻塚から出てくるのは蟻ではない。
蛾だ。
なぜか蟻塚のような土の塊から、小さな蛾がわんさかと湧いて出てきているのだ。
大きな蛙はその蛾を舌で捕まえ食べているのだ。
どちらにせよ、女は近づきたくない。
そう判断し、その場から足早に離れた。
次の日も蛙はいた。
やはり蟻塚のようなものから湧き出る蛾を食べている。
それにしても、あの蛾もよくわからない。
いつまでたっても、なぜそんなに湧き出てくるのか理由もわからない。。
なんとなく、ではあるが、あの蛾が周囲に広まらないのはあの大きな蛙のおかげなのでは、と女は思った。
翌日の帰り道だ。
閉店した店舗の軒下に蛙はいない。
その代わり、辺り一面には小さな蛾が我が物顔で飛び回っている。
まるで雪でも降っているかのように、辺り一面を飛んでいる。
女は溜まったもんじゃない、と走ってその周囲を通り抜けた。
それからしばらく、その閉店した店舗の周りでは昼夜問わず虫が飛び回っていた。
ある日、近所の子供が大きな蛙を捕まえて飼っているという話を噂で聞いた。
女はだから、あの蛾が減らないのか、と納得する。
その噂をしてくれた友人に、大きな蛙が閉店した店舗で発生している虫を食べてくれているのを見た、と伝えた。
噂好きの友人のことだ。あっという間に広めておいてくれることだろう。
それから一週間後くらいだろうか。
その噂が、虫が発生していたのは蛙が捕まえられたからだ、という噂が狭い田舎町に広まり、大きな蛙は逃がされることとなった。
だが、なぜか、蛙は数匹に増えており、閉店した店舗の軒下には数匹の大きな蛙が住み着き、今も蟻塚のような土の塊から湧き出る蛾を食べてくれている。
とりあえず虫が飛び回るようなこともなくなった。
後に、蟻塚のような土の塊が誰かに壊され、それに伴い大きな蛙たちも見かけなくなった。
女はなんとなく、あの蛙は神様の使いだったんじゃないか、なんて考えていた。
その証拠、というわけではないが、そう考えたのは女だけではなかったようで、小さくはあるが蛙の像が閉店した店舗の軒下に飾られ、蛙様と呼ばれるようになっていた。
蛙様に拝むと、虫よけのご利益があるとかないとか、そんな噂もあった。
では、あの蟻塚のような土の塊から出て来ていた蛾はなんだったのか。
結局、それはわからないままだ。
かえる【完】




