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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ぱにっく

 女が朝、通勤で満員電車に乗っていると、少し離れたところで、複数の悲鳴が上がる。

 最近は何かと物騒になってきている。

 女は何か事件でも起きたのかと身構える。


 すごい騒ぎだ。

 周囲がうるさすぎて何が起こっているのか、女も把握できない。


 その中で女は聞き捨てならない言葉をいくつか耳にする。

 化け物だ、蛇だ、スズメバチだ、毒蜘蛛だ、ヒアリだ、などだ。


 化け物はともかく、あまり身動きできない満員電車の中で蛇や毒虫の類が勘弁してほしい。


 席に座っている客の中には靴のまま座席の上に避難してしまっている者もいる。

 それが一人や二人ではない。

 マナーは良くないがそう言っている場合ではない。

 そうこうしている間に騒ぎはどんどん大きくなり、中には荷物棚の上へと逃げ出そうとする者も出てきている。


 いくら何でも騒ぎすぎだし、満員電車になるほどの都会で少なくとも野生の蛇など女は見たことがない。

 その他の毒虫はいてもおかしくはない。

 ただ満員電車の中では逃げ場はない。

 慌てるだけ無駄だと、女は冷静でいた。


 そんな女の足元も、何かが通る。

 それは間違いなく毛の生えた何かだった。

 足首のあたりを毛の生えた何かがスルスルと通り過ぎていく。


 たまらず女は悲鳴をあげる。


 先ほどまで冷静だった女はそこにはいない。

 事前に入っていた情報、蛇や毒虫の類には少なくとも毛はない。


 だから女は、ひぃ! 化け物が通った! そう悲鳴をあげてしまう。

 車内のパニックはそこからさらに広がる。


 結局騒ぎは大きくなり、次の駅で電車は止まり、乗客を降ろし車内を調べることとなった。


 だが、結局、人間以外何も見つからなかったのだ。

 もしかしたら、ネズミの一匹でも混ざり込んでいたのかもしれないが、それが発見されることはなかった。


 人々は感じたこと、聞いたことを口々に駅員に説明する。

 女も足元を毛玉のような何かに触られたと説明するが、別の者が鱗の生えた生物だったと証言する。

 またあれは昆虫の類だったという者も現れた。


 結局、誰もその正体を正確には知らなかった。

 





ぱにっく【完】

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