なきごえ
女が夜寝ていると、家の外から子供の泣き声が聞こえてくる。
大きくワンワンと泣くような感じではなく、鼻をすするようにメソメソと泣くような、そんな泣き声だ。
そんな声が聞こえるわけがない。
女はそう思った。
家の中ならともかく、家の外からそんな声が聞こえてくるわけもない。
しかも今は夜中だ。真夜中だ。
だが、実際に庭の方からそんな声が聞こえて来るのだ。
真夜中に迷子でも迷い込んだのか、女はそんなことを考える。
それでもすすり泣くような声が聞こえてくるのはおかしい。
音量的にも聞こえて来るわけはないはずなのだ。
それを考えると女は怖くなる。
怖くなった女は布団を頭からかぶり、無理やり眠ろうとする。
だが、いくら布団を被ろうとも、すすり泣く声は聞こえて来る。
しかも、その声は次第に大きくなっていくようにも思える。
すすり泣いている存在が、自分に気づき寄って来てしまったのではないかと、女がそう思った時だ。
ガチャ、という音がして女の部屋のドアが開く。
女は息を殺して布団の中に潜む。
心の中で、見つからないで、と繰り返しながら。
そうしていると、布団が引っ張られる、そんな気がする。
実際に引っ張られているのか、気のせいなのか、そんな境目で、布団が徐々に引っ張られているような感覚に女は陥る。
ただやはり気のせいなのか、布団が引っ張られるような感覚がいくら続いても、女が布団から出るようなことはない。
もちろん、その間もすすり泣く声はすぐ近くから聞こえて来る。
まるで女が布団から出てくるのを待っているかのようにだ。
女は布団の中で、どっかに行け、どっかに行け、と、繰り返し願った。
そのまま女は布団の中で意識を失うように眠りにつく。
女が朝起きると、女のベッドの前に水たまりが出来ていた。
しかも、その水たまりは何かを引きずるように玄関まで続いていた。
女は昨晩布団から出なくてよかった、と心からそう思った。
腕に子供に掴まれたような痣ができているのを発見するまでは。
その後どうなったのかって?
女は今のところ無事だそうだし、再びすすり泣く声が夜中に聞こえて来ることもないそうだ。
ただ、腕に残された手形のような痣はまだ消えない。
なきごえ【完】




