上村警部
翌朝、観月橋駅近くにある、とあるマンションの一室に安道は居た。
いや、寝ていると言った方が良いだろう。
もう朝の10時であるが。
けたたましく鳴り響くパトカーのサイレンの音に、安道の安眠は妨害された。
「うーん、朝からうるせぇなぁ〜」
ベッドの中から、安道がウザそうに言った。
「あ、起きたの?」
女の声がした。杏奈である。
「なんか、サイレンの音近くない?」
安道が、目を擦りながら杏奈に聞くと、
「うん、さっきベランダから見たんだけど、すぐそこの大きなマンションの前に、パトカーがいっぱい止まってるよ」
杏奈は、安道にそう言ってベランダを指差す。
「どれどれ?」
そう言って、安道がパンツ一丁でベランダに向かう。それについて来る杏奈は、ちゃんとジャージを着ているが。
「ほらあそこ!」
杏奈がベランダから指差す方向に、3台のパトカーと、警察車両のワンボックスが2台。
それを見ていた安道が、
「本当だ。あ、うえっこが居るから、事故じゃなく事件だな」
と、言った。
「うえっこ?」
と、首を傾げて杏奈が聞く。
「ああ、友達が伏見署の刑事なんだよ」
と、安道が言うと、
「へぇ〜刑事さんかぁ」
と、杏奈が呟く。
「ちょっと行って、話聞いてこようかなぁ?」
「今日は服とか乾いてるよ!」
と、前回とは違うと自慢する。
「でも腹減ってるし、どうしようかな?」
「なんなら今すぐに行ってきて。戻ってくるまでの間に朝食兼昼食を作っておくよ」
「ブランチってやつか」
「だね!」
と話は纏まり、安道は服を着て杏奈のマンションから、歩いて出て行く。
京都の外環状線にあたる道を、徒歩で東に歩く。
車の交通量が多い道に、パトカーが止まっているので渋滞しているが、徒歩の安道には関係ない。
そうしてパトカーの横に立っている、スーツ姿の男に向かって、
「よう! うえっこ!」
と、声をかける。
男は、その声に振り向き、
「ん? なんだ安道か」
と、言いながら安道に近づいて来る。
身長は、167センチほどだろうか。
小柄で短髪の黒髪で、少し垂れ気味の眼の奥には、力強さが見て取れる。
「なんだはないだろ」
と、安道が言うと、
「なんでこんなとこ居るんだよ」
と、安道に聞いてくる。
「あのマンションで寝てたんだよ」
と、安道は自分がさっきまで居たマンションを、指差して答える。
「また新しい女かよ。いい加減落ち着いたら?」
と、男は呆れて言うが、
「それ、お前が言うかね?」
と、安道が言い返す。
「今は落ち着いてるぞ!」
と、心外だとばかりに言い返す。
「結婚前を知ってるからなぁ」
「忘れろ!」
「無理! で? 何があった?」
と、安道が小声で聞くと、
「20代の、男性の遺体が発見されたんだよ」
と小声でうえっここと、上村が言った。
「お前が来てるって事は、殺人か?」
「それがなぁ。俺はまだ見てないが、遺体は腐乱が始まってるが内臓が無いんだとよ。猟奇殺人の線が濃厚かな」
「ハラワタががねぇのか」
「胃や腸、肝臓や心臓から全部ねぇとよ!」
「発見者は?」
「無断欠勤したまま、連絡が取れない事を不審に思った会社の同僚と、それを言われて、鍵を解除しに来た大家」
「その大家も災難だったな」
安道がそう言ったとき、
「上村警部、鑑識作業終わりました」
そう言って、部下の刑事が報告に来る。
上村は警部らしい。
「お! ご苦労さん!」
上村は、部下の刑事にそう言うと、
「じゃあ俺は、マンションに戻るわ」
と、邪魔しては悪いと思った安道が、上村に言う。
「おう! またターチンの店で飲もうぜ!」
上村は、手を挙げて安道に言うと、
「オッケー!」
と、安道も手を挙げて応えた。




