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影女といく異世界紀行  作者: ケイン島谷
死亡・天恵・転移
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009.風呂場にて思う

 天井から落ちた雫がお湯を打つ。風呂に入りながら、俺は入れた記憶を反芻するように飲み込んでいた。


 ここはデイジア王国、東側の辺境。

 大陸は北に広大な版図を持つドルメギス帝国。

 西には国としての規模は小さいものの、この世界の最大宗教であるアメリ神を奉る総本山アメリ聖国。

 その南は遊牧や服飾が盛んなウィンディゴ公国、三方を海で囲まれ漁業が盛んなカイマール王国と続き、東は多民族国家のセレスニア王国がある。

 この国と、その周辺国はざっとこんなものらしい。


 流通している貨幣は金貨一枚=大銀貨十枚=銀貨百枚=大銅貨千枚=銅貨一万枚=銭貨十万枚。金貨の上には大商人や国同士が使う大金貨や白金貨、更に王貨があるらしいが、一般人はまず見ることがないようだ。


 人間に魔法使いがいないと聞いたときは心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。声が漏れるのはなんとか堪えたが。

ずっと昔は、風魔法が得意なエルフ、土魔法が得意なドワーフ、水魔法が得意なサハギンとマーメイドに、火魔法が得意な人族。そして四属性全てに一定の適性を持つ魔族に、魔法は使えないが体術が得意な獣人族。

 この中で獣人族は最初から使えなかったからまだいいが、二百年ほど前、突如人族から火魔法が失われ、今では火魔法は魔族が得意だと言われるほどだという。

 人族は大きく混乱した。厄災か、神の裁きか。やがて時が経ち、沈静化したころ、今度は魔獣が心臓部に持つ魔石を燃料にした魔道具が発達し、今では「魔法は邪であり忌まわしきもの、魔道具を操る人間こそが至高」という過激派もいるという。人種差別がないわけではないが、表立って動いている人間もそれほどはいないようだ。

 四属性以外の魔法は、聞いたことがないと言われた。ここで俺が召喚魔法を使っているなどと言い出したらどんな反応をするだろう。


 とりあえず死んだらあの職員は二回殴る。


 千影は奴隷なのかと聞かれた。どうやら首に巻いたチョーカーが魔道具の一つである隷属の首輪と酷似していたようだ。あとで外すよう言っておかないと。

 嫁であるのかとも聞かれた。これは曖昧な返事をしておいた。俺のぼろぼろの服と、千影のドレスだ。大分背伸びをして買い、そのまま嫁にしたのかと。

 奴隷を嫁にするものもいないわけではないらしい。魔獣の危険が外に出るとどうしても付きまとい、バンバン人が死ぬため、一夫多妻制、一妻多夫制、多夫多妻制の全てが問題ないのは、結構カルチャーショックを受けた。当然、それを受け入れるのは全員の署名が必要だ。


 他にもまだまだ聞きたいことがあったのだが、物事を知らないにもほどがあると不審な目をされ始めたので、風呂のタイミングと同時に部屋を出た。


 これからどうすべきか。


 生きていくためには、当然金が必要だ。住居もできればほしいが、クーガーさんのところで世話になるわけにもいかない。娘の命の恩人とはいえ、二人で上がりこむとかちょっとない。千影を送還して俺だけってのはもっとあり得ない。どこに行ったのかという当然の疑問があるし、なにより俺が辛い。

 千影なくして異世界なしだ。

 一時的な送還はあるだろうが、定住のために千影と離れ離れとか目的と手段が逆転している。千影に迷惑を掛けるかもしれないが、それなら根無し草のほうがよっぽど良い。

 レベルを確認すると、四に上がっていた。俺が倒したのは結局二体だけだったが、千影が倒した分も経験値としてもらっているのだろう。

 スキルは変わっていなかったが、ステータスは少し伸びていた。


 HP:20→25 MP:1→10 腕力:16→19 体力:16→21 知力:9→17 魔力:1→10 敏捷:16→20 器用:5→9


 そういえばバガントの群れとの戦闘からこっち、ステータスの変更をしていなかった。数値操作・弱は一回使うと次に使うまでにおよそ三十分のクールタイムが必要だ。修正しておこう。

 ここで気になったのは、風呂上がりの千影だった。

 なまめかしかったとかそういう話ではない。いや、まあ、否定するほどでもないが。それはそれとして。

 レベルが1から変わっていなかったのだ。

 影女が妖怪だからか? とも思ったが、たぶん違う。

 MPを10消費して召喚し、魔力不足と出ていた。

 あれは、もっと魔力を消費していればレベルやステータスも違っていた、という意味だと思う。

 それを考慮して、俺はステータスを振りなおす。今回は39ポイントだ。


 HP:25→20 MP:10→40  腕力:19→10 体力:21→15 知力:17→20 魔力:10→15 敏捷:20→6 器用:9→5


 MPに全振りすることも迷ったが、とりあえず知力と魔力にも振っておく。知力と魔力って相互関係ありそうだけど何が違うんだろう、この辺りもできれば本か何かで調べとこう。


 さて、何のことを考えていたっけか。

 ああ、今後どうするか、か。

 冒険者か?

 いや、確かに金は必要だ。必要だが、常に命の切った張ったをしたくはない。必要なら魔獣を狩って日銭を稼ぐこともあるだろうが、それメインはちょっとなあ。とりあえず、千影が回収していたバガントの死体はここの冒険者ギルドに売り払おう。先立つものがないし。


 金かー。


 あの会社、ブラックではあったが金払いはよかったんだよなー。

 それを使う間もなく過労で死んでしまったが。

 勿体ないが、どうしようもない。

 あの世界へは、どうやっても行けはしな……。

 …………。

 ん?

 千影は、あの世界から召喚している。

 なら、あの世界での活動もできるだろう。

 俺の社畜時代、ずいぶん千影の家事には助けられた。特に料理。 料理ができるってことは、物が触れるってことだ。

 それなら、ATMで俺の貯金残高も……。

 ゾゾッ、っと背筋に痺れが走る。俺は立ち上がり、わき目もふらず風呂場から飛び出した。


「千影千影千影ーっ!」


 俺はその姿を探し、すぐに見つける。それほど大きな家じゃない。どうやらミーナちゃんの髪を乾かしてあげているところのようだ。


「あら、ご主人様、ずいぶんおはや……」

「千影、聞いてくれ、すごいことに気づいたんだ!」

「いえ、あの、ご主人様?」


 俺の剣幕にたじろぎ、千影がのけぞる。


「どうしたんだいカズキく……」


 俺の声に気づいたのか、クーガーさんもやってきた。すぐさま固まっていたが。お前がどうしたってんだ。


「ご主人様、申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか」


 千影が、そっと影から何かとりだした。

 バスタオルだった。


「その、私を求めてくださるのはとても嬉しいことなのですが。まだ日も高いですし、人様のお家では……」


 千影の頬に朱が射す。そんな顔もかわいい。

 なんて言っている場合ではない。

 とんだ露出狂の誕生である。しかも5歳の娘と父親の目の前での犯罪、言い逃れはできない。


「す、すんませんしたー!」


 千影以上に顔が真っ赤になっているだろう俺は、前を隠して一目散に元来た道を逆走した。はーかっこ悪い。

少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。



感想・レビュー・ブクマ・ポイントは作者のやる気に直結します。よろしくお願いします。

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