↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影女といく異世界紀行  作者: ケイン島谷
デイジア王国編
32/34

031.夢の中へ

お待たせして申し訳ありません! 今回少し長いです! 十万文字達成しました!

違和感に目を開くと、そこは宿屋ではなかった。霞が棚引く灰色の空間。上下左右という認識が薄れそうな、どこまでも同じ景色が続いている。地盤がないのに足踏みできるのは妙に調子が狂う。

 ……あれ、もしかしてまた俺死んだか?

 いやいや、そんな、まさか。ははは。

 死因として考えられるなら……腎虚とか。やはりスタミナポーションを飲んでおくべきだったか。


「お、青山君、ようやく来たね。元気してた?」


 アホなことを考えていると、いつか聞いたような声を掛けられる。振り返ると、やはり特殊転生課で会ったやる気のなさそうな職員だった。


「いやー、二百年ぶりに人間から魔法を使った気配あるなーと思ったら青山君たちじゃん? ビビるよねー、世間狭いなって。本当はもっと荘厳な雰囲気で賢者に称賛を送るイベントっぽくしたかったんだけど」


 …………。

 よし。

 俺は無造作に近づくと、彼の胸倉を掴み、渾身の力で殴り飛ばした。


「ふげえっ!? な、何をするんだいきなり!」


 職員は目を白黒させているが、何をするんだは俺の台詞である。


「うるさい! 本当は二発殴ろうと思っていたのを一発で我慢したんだ! なんでわざわざ魔法のない世界に飛ばしたんだよ! しかも初期のレベルじゃあ千影が召喚できないとか完全に罠じゃないか! バガントが偶然一匹だけだったから良かったものを、群れだったら転生早々にもう一度死ぬところだったんだぞ!」


 言葉にすればより一層怒りが湧いて出てくる。それもこれもこの馬鹿が大事なタイミングでくしゃみするからである。いや、魔法の有無に関しては聞かなかった俺も悪いか……? でも普通、魔法をくれるのなら当然普及してると思うだろ。いや、普及はしていたが。ピンポイントで人間だけが使えないとか想定してないわ。


「それに関してはホントごめん。というのも……あー。それよりまず、いないよね? いや、いるわけないか、君の深層心理にゲート開いたんだから」

「誰をお探しですか?」


 片手を立てて簡単に謝る姿はいつか見た通り、形だけである。別にいいけど。そして、ゆらりと俺の背後から抜き出るように千影が現れると、鬼でも見たかのように青い顔をした。


「ど、どうしてここに……」

「影女ですから」


 有無を言わせない、便利なフレーズである。千影の笑みには、たまに得も言われぬ凄みがある。そういえば、今の千影は初めて会った時の姿だ。二十歳そこそこで、ドレス姿。十代の千影もかわいくて好きだが、やはり今の千影は格別である。頑張ってレベルをあげよう、うん。


「私がいては、迷惑でしたか? すみません、影女なもので。ご主人様がいるところには、いてしまうんですよ」

「いや、そんなことは、ない、ですよ?」


 思わず敬語なっている職員。

 それに対して、千影はのんびりとした口調なのに、一呼吸ごとに怒気が膨らんでいるのが幻視できる。それも無理ないか。あの状況なら、俺以上に怒るだろう。俺のピンチに自分は手出しできないんだから。


「何か言いかけていたように思うのですが。というのも……、から、何を言おうとしたんですか?」

「えっと、あー。それは……」


 視線をさ迷わせる職員。まるで破綻したことを言い出せないまま空転する会議のようだ。前世の暗部を思い出させる。

 しどろもどろだった職員はしかし、ようやく覚悟を決めたようで、ぽつりぽつりを話を始めた。


「えー……、まず、君たちが飛ばされた世界は、元々予定してた世界ではありません。その世界を担当する神に『いつになったら来るのか』と怒鳴られて、結局諸々のこと全部バレて、始末書十三枚書かされたからね俺。腱鞘炎になるかと思ったわ」


 それは完全にあなたの自業自得です。

 俺の半目もどこ吹く風と、職員がため息を吐きながら続ける。


「あの時さー、最初青山君もあんまり乗り気じゃなかったじゃん? だからどんな世界が希望だったかとかも後回しで、とりあえず飛ばしちゃえって感じだったのがいけなかったかなー。くしゃみで転移がぶれるとかもうね、想定外じゃん? もう魂が今の世界に定着しちゃってるから、しれっと予定してた世界に飛ばすとかもできないしね」


 出来てたらするつもりだったのだろうか。いや、この職員ならやりかねない。そもそもまともなところに転移できるかわからないタイミングに自分の進退を憂いていたぐらいなのだ。


「ちなみに、どんな世界にいく予定だったんですか?」


 気を取り直して尋ねてみると、どこからか資料のようなものを浮かべパラパラとめくる職員。


「えーっとね、一応、元々は恐竜がまだその辺を闊歩していて、毎日人間をぶっ殺したりするところに飛ばすつもりだったみたい。通称フロンティアだね。天恵(ギフト)もらって異世界転生してるんだし、英雄願望を叶えたい人って結構いるからさ」


 …………。


「あと他の候補として、AIやアンドロイドが人間に反旗を翻して、毎日人間をぶっ殺したりするディストピアとか、細菌やウィルスといった微生物が人間を脳から操って、毎日人間とぶっ殺しあったりしてるパラサイトとか」


 異世界の選択肢に碌なものがない。というか、何があっても人間を殺したいのか。


「ほら、やっぱりヒーローが活躍するには巨大な悪が必要じゃん? だから前もって用意しておくのさ。ある意味据え膳だよ。その世界なら千影さんだって最初から召喚できてたしね」


 それを据え膳だと言い張るならちゃぶ台からひっくり返すわ。


「全く……千影も何か言ってやってくれよ」

「そうですね。ご主人様活躍の場を奪っておいて、その態度は何ですか。犬猫でも悪戯をしたらすまなそうな顔をするというのに、まるで誠意というものが感じられませんよ」


 ……そうか、千影はそっち派なのか。というか、何度もいうようだが、俺に英雄願望ってないんだよ、本当に。千影とやっていけたらそれだけでいいの。

 俺は千影の肩を抱き、優しく言い含めるように始める。


「あのな千影。例えば、俺と千影が救国の英雄として奉られるとしよう。多方面から恐竜の群れが来た! カズキ殿は東を、千影様は西の群れをやってくれ! え? 終わったんだったら恐竜の住処を一つでも潰しにいってくれよ、グズグズするな、二人とも一騎当千の強者なんだ、遊ばせておくことなんてできるわけないだろう、なんでわざわざ一か所に二人でいるんだ、常に別々の仕事をこなせそっちの方が効率的だろうそんなこともわかんねぇのか……といったことが起こったら、どうする?」

「恐竜も殺しますが、まず私たちがその世界を支配するように動きますね」


 三すくみの始まりである。

 それはただの想像での話でしかないが、千影はイラッとしているようだし、実際なくもないと思う。人間はどんなことでも武器にする。それこそ、「自分はあなたより弱いのだから、守ってもらって当然だ」ということさえ。

 そういう点では、あの世界に飛ばされたこと自体はそこまで悪くなかったのかもしれない。確かに魔獣はいるが、人間という種が絶えるかどうかという切羽詰まった環境じゃないし。もしかして魔王が虎視眈々と世界を狙ってたとかないよな?

 というか。なら、そもそも。


「あの世界はなんなんですか? 俺みたいにスローライフ願望用に作られたとか? それだったのなら結果的によかったのですが。英雄の器じゃないって伝えたときに案内しろよとは思いますが」

「あそこ? あー、あそこはねえ……」


 今日一番で目が泳いでいる。どうしたんだ、お前の目は世界大会でも狙っているのか。誤魔化しようがないんだから早く言って欲しい。ほうれんそうは社会人の常識だぞ。


「あそこは……えーっと。言ってみれば、文明ツクールというか。俺たちみたいなのでも、新しい世界を作って神さまっぽいことしようぜっていうゲーム空間みたいな? だから、本当は人間たちも魔法を使えるんだけど、この世界換算で二百年前のアップデート以降から使えないと『思い込んでいる』んだ。魔法の発展もそれだね、火、水、土、風の四属性以外にも魔法はあるんだけど、気づかない。もっと正確に言うなら、気づきにくい。あと三百年ほど進んだら、知識が積み重なって何らかの魔法を発見したんじゃないかな? そこからは雪崩式に増えていくと思うけどね」

「異世界転生モノだと思ってたら閉じ込められ型のVRMMOアクションRPGだったわけですか。いえ、プレイヤーがご主人様だけならMMOではありませんね。タグ付けに困ります」


 何の心配だろう。


「一応、住人たちもNPCとかじゃなく、全ての命に自我はあるけどね。仮にも遊戯の神さまが作ったものだから」


 それを聞くと少しだけ安心する。ミーナちゃんやクーガー夫妻、ガルドのおっさんやギルド支部長が意思なく動いていたのなら、ちょっときつい。場合によっては吐くかもしれない。

 しかし、道理で。やけに地球に住んでいた頃と法則が同じだなと思っていたのだ。一年が三百六十五日で、一日は二十四時間。一週間は七日刻みで、一か月は二十八日。ただ、一年は十三か月で、年始には「その年を迎える日」という日が別枠にあり、一月だけ二十九日だ。その他にも色々と地球そっくりなシステムが多い。


「三百年前のアップデートでずんぐりむっくりだけど力はそんなでもないっていう魔獣を作ってね、まあバガントのことなんだけど。そこからはそこそこ安定して肉を供給できたようで、寿命も結構延びたね。百年前のピュアライトクリスタルは不評だったけど。良いアイデアだと思ったんだけどな。愛の力であの子を守る、定番でしょ? あと、当然と言うか、二百年前の事件のせいで人間たちが神を信じなくなったよね。別の神様を奉(たてまつ)ってる国までできる始末だし。なんだよ、俺の立場ゼロじゃん」


 ああ、なんだか知った単語が次々と。あと信仰がなくなったのは因果応報だ。

 俺は頭を掻きながら整理する。


「要するに、正規の異世界じゃなく、パチモン掴ませておきながらクーリングオフも出来ないことを悪く思っていると、そういうことでいいですか?」

「有体(ありてい)に言うとそうだね」


 俺の中で吟味する。

 この世界が一種のゲームの中というのは確かにショックだったが、人間を蹂躙しないと気が済まない異世界の何百倍も良いだろう。千影を召喚できなかったのと魔法を使いにくいってのも、あのグーパンでチャラだ。だとするなら……俺からこれ以上いうことはないかな。


「ゲームっていっても、青山くんが死ぬまではこっちであの世界壊すことはしないからさ。そこだけは安心して欲しい」

「そう……ですか。わかりました。今回はこれで終わりですか?」

「えっと、ちょっと待ってね。千影さんだけこっち来てもらえる?」

「お断りしますが?」


 千影が取りつく島もなく拒絶の言葉を口にする。


「いや、あの、本当。少しだけなんで、どうか、来てもらえますか?」


 そして職員が無駄に低姿勢だ。千影が困った顔をこちらに向ける。


「俺が一緒にいると、何か困ることが?」

「えーっと。そういうわけでは。どちらかというと、知らない方がいいこともあるとか、そういう類(たぐ)いの……」


 要領を得ないが、俺はいない方が良いようだ。何かできるのならとっくにやっているだろうし、任せようか。

 俺は千影に首肯すると、千影も仕方なさそうに職員に歩み寄った。

 俺から十五メートルほど距離をとり、何事かを聞いている様子の職員。それに対し、肯定しているらしい千影。唐突に大仰な動作で深々と土下座する職員。どうしたものかと見下ろす千影。

 なんだこの図式。

 そして、謎のやり取りをすること数分。

 千影は困惑した表情のまま、ぽつりと言った。


「私も召喚術を使えるようになったらしいです。地球上で友達だった存在だけらしいですが」


 どういう話し合いをしたのか非常に気にはなるが、聞かない方がいいんだろうなあ。いつか聞くタイミングが来るように思うが、それは今ではなさそうだ。


「えっと、じゃあそういうことで。青山さんも、千影様もお元気で」


 職員が締めに入るが、いつの間にか千影の敬称が様である。本当どうしたんだよ一体。

 目を精いっぱい逸らし、『聞かないでくれオーラ』全開の職員の姿を最後に、俺の意識は闇に融けた。

 ああ、終わり際、聞きたいことが増えてしまった。


 異世界転生、本当にただのミスだったのか? 都合よく、職員の作った世界に跳んだりするか? 三百年前、二百年前、百年前とアップデートして、なら今は節目の年なんじゃないか?


 答えてくれる人は、誰もいない。

少しでも気に入ってもらえれば幸いです。

感想・レビュー・ブクマ等作者のやる気に直結します。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。