028.調書
仕事がなんとかひと段落しました。更新がんばりまーす。
俺たちはギルドの執務室に通された。俺と千影いらなくね? とは思ったのだが、言い出せる雰囲気ではなかった。
執務室は思ったほど乱雑ではない。正直、支部長の雰囲気なら、物が所狭しと置かれ、とても足の踏み場もないってのも想像していたが。
「部下が優秀だからね」
俺の視線に気づいたのか、どこか誇らしげに支部長は言った。副官か秘書か、片隅にいた女性が小さく頭を下げる。
「改めて、僕がこの町の冒険者ギルド支部長、カノッサだ。一応名乗りはしたけど、覚えなくていいよ、おっさんとかで」
支部長はゆったりとしたソファーに腰を下ろして深く座り、大きく伸びをしてから改めて四人を見渡した。副官がため息を吐き、後ろに控えて調書に取り掛かる。
「それで、何がどうしたんだい? 一応部下からあらましは聞いちゃあいるんだけどね、君たちの口からちゃんと聞いておきたい」
俺たちは互いに顔を見合わせ、結局代表してハルギッテが前に出た。
「私の火魔法を先生に見せていました。火力の調整が思うようにいかず、それを起因として今回の騒動に発展……で、いいですよね?」
ハルギッテの回答に俺は首肯で返す。そういえばお前はお前で魔法使ったあと伸びてたんだったな。あとアホっぽい語尾外せたんだな。
「先生?」
支部長がメイファさんに視線を向ける。この三人の中で魔法を使えそうなのはメイファさんしかいないし当然か。
「いえ、先生はメイファではなく……」
ハルギッテの方も対応を決めかねているのか、チラチラとこちらに助けを求めるように目で訴える。あー、これ説明するのどうするかね。魔法が使えるのは……、とりあえず、言わない方がいいか。
「俺がハルギッテの魔法を見せてほしいと言ったんだ。まだ見たことがなかったもので、興味本位だ。先生ってのは……、たぶん、ガルドと剣を交えたのを見たんじゃないのか?」
一歩分前に進み、一応の補足を試みる。先生については……これ以上フォローできない。まあ剣術だけなら多少は見れるレベルの筈だ。
「ガルド?」
そういうと、今気づいたかのように俺の顔をまじまじと眺める支部長。
「ああ、君が例のガルドを破ったFランク冒険者かい? いや、今はDランクか。本当に目つきが悪いんだねえ」
面白いものでも見つけたように支部長はくつくつと笑い、得心がいったよと頷いた。
「なるほど。だから先生、ね。随分懐かれているようだけど、怖くはないのかい? 相手は魔法使いだぜ? 君の剣術が凄いのは聞いているが、相手は剣の間合いよりよっぽど遠くから炎や洪水を撒き散らすことだって可能だ。腰に佩いた剣一本で戦えるのかい?」
俺を試すような質問。だが、ハルギッテ相手に怖い……?
ないな、うん。
そこまで耄碌してない。
「間合いだけでいうなら、剣よりも槍の方が強いですし、無防備な風呂のときにでも襲撃されれば包丁だって十分武器になりえます。問題は使い手であって、その手段そのものには恐怖したりはしませんね」
怖いのは……そうだな。
人の悪意か。
もしくは、行き過ぎた善意。
俺の言葉に満足したのか、支部長が振り返り、副官が頷いた。
「じゃあま、こんなものか。火力の調整ってのも、ギルド訓練場でのことだからね。むしろ暴発しなくてよかった。
今回の件は、ちょっとした行き違いみたいなものだよ。火魔法をまともに使いこなせるのは今や魔族しかいないわけで、その魔族が巨大な火球をぶっ飛ばしたとあっちゃあ、そりゃ怖いだろうさ。ここ最近、そういう派手な魔法を使う魔族の話は聞かなかったってのもあるかもしれないし、貴族連中は勝手に騒ぐしね。
元々魔法使い出身だった平民が、その功績から貴族になったってのは多い。かくいうこの領地も、三百年ほど前に世間を騒がせた暗黒竜の討伐を成した魔法使いに下賜されたものさ。だからこそ、失った魔法に対する恐れは人一倍大きいんだ。ま、その辺はうまくやっておくさ。お嬢ちゃんもこれに懲りず、ちゃんと魔法の練習をして欲しいってのが、ギルドとしての見解かな。んじゃ、お疲れさん」
そう締めくくって、俺たちは解放された。特に悪いことをした覚えがないとはいえ、上の人間と対面するのはやはり肩が凝るな。
ギルドから出て何となく四人連れ立って歩いていると、どこか伺うようにハルギッテが聞いてくる。
「あの、いいんすか? 先生が魔法を使える人間だってこと、言っちゃえばそれだけでランクがもっと上がったかもしれないっす。今や魔法を使える人間なんて聞いたことがないっす。その名声が上がれば、いつかは貴族、いや英雄にだってなれるかもっす」
は? 何考えてるんだこの子。
冗談はやめてくれ、と手で扇いで見せる。
「英雄とか興味ないよ。俺は千影と一緒に世界を廻れればそれ以上は望まない。ギルドに所属しているのは路銀を稼ぐためと、最低限の後ろ盾確保のためだよ。高ランクしかいけない山奥に絶景の秘湯とかあるかもしれないから、ランク上げだけは真面目にやるけど。貴族や英雄ってのもガラじゃないしな」
それに第一。
「魔法を使える人間ってのが希少価値なのは十分理解している。それを大々的に発表してどうなる? 研究機関にぶち込まれて体のあらゆる所をまさぐられて、千影自重しろ、最終的にはぶつ切りにされてホルマリン漬けだ。千影殺気出すな」
それが人間サイドであろうと、魔族サイドであろうと。
更に、俺が手を加えれば、その魔法は爆発的に威力や指向性が上がるってのも問題だ。それがわかれば、躍起になって魔族は手に入れようとするだろうし、人間は魔族にさらわれるぐらいならと俺に暗殺者でもなんでも送ってくるだろう。いわんや、コピペをや、ってやつで、魔法使いの大量生産も可能とわかれば、一体どうなることやら。考えたくもない。
支部長相手に言わなかったハルギッテにはファインプレー賞をあげよう。
「いや、さすがにあんなこと言えないっすよ。単純に、他人のスキルを話すのってマナー違反ですし。回復魔法? を見せてもらった時は、本当に神さまかと思ったぐらいっすからね。罰中てられちゃ洒落になんないっす」
神さまか。
ちゃらんぽらんな閻魔殿職員っぽい奴なら会ったことあるが。
この世界にもいるのだろうか、神さま。
「それはそうと、ハルギッテの方はどうなんだ。ああいうことがあって、思うところないのか? ちょっと魔法使ったぐらいで大勢で来て野蛮だー、とか」
俺が問うと、ハルギッテは困ったように目を閉じ首を傾げた。
「いやー。思うところねえ。まあ、しゃあないっすよね、ぐらいっすよ。ああ、人間は変わらないんだな、と。魔法が使えた当時の人間は、魔法が全種類使えても、極めることができない魔族を馬鹿にしていたらしいっす。器用貧乏族って。そんで、魔法がなくなれば、それを奪ったのは魔族だー、とか。
表立って言う人はもう随分と減ってはいるっすけど、やっぱりどこかよそよそしいっすよね。どうあっても、絶対数が少ない魔族っすから。ある程度期待値低めで関わってる方が精神的に楽っすよ」
今までの受け答えより達観した目をしているのは、ハルギッテなりにこの世間を見て感じたことなのだろう。いつだって割を食うのは少数派だ。
「だから、先生が私の魔法を間近で見たいって言ったときはびっくりしたっすし、アホとか気軽にいってくれるのが結構心地よかったりするっす!」
やめろ、それ系は千影だけで間に合っている。キラキラした目で見上げてくるな。
ハルギッテは一しきり盛り上がって、はたと名案を思い付いたように大声をあげた。
「そうっす! 先生も旅してるなら、私も御供に連れてって欲しいっす! それなら魔法の修行も捗るっすし、先生も女の子に囲まれていいことずくめっす!」
「は?」
俺の背後から、邪悪な天岩戸が重い音を立てて開く音がした。
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