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影女といく異世界紀行  作者: ケイン島谷
デイジア王国編
28/34

027.騎士団の介入

期限が守れず申し訳ない……。

 新たに魔法を開発したと浮かれていたが、召喚魔法だってこの世界にはなかったんだよな、と思うと急に冷静になった。それは天恵(ギフト)のおかげではあるが。


 疑問に思うことがある。


 どういったやり方かは知らないが、魔法を研究しているのならゴーレム作成の手順で回復魔法に気づきそうなもんだが。最初から土魔法は地味だからと研究が進んでない? 固定観念に囚われ過ぎて見落としている? 俺のやり方が特殊過ぎる?

 他にもだ。なぜ二〇〇年前突如人間から魔法が奪われた? 病気? 遺伝子異常から起こるバグ? 何者かの暗躍?

 …………。

 考えたところでわかるものではない。

 わからないままでも困りはしないが、気にはなる。


「人間は二〇〇年魔法を使えなかったんだよな?」


 改めてハルギッテに問いかけてみると、当然のように首肯された。


「そうっすね。人間が秘匿していないのなら、そのはずっす。ある日突然、何の予兆もなく、全ての人間は魔法を使えなくなったっす。大人も子どもも、男も女も、どこの国でどうやって生活してきたかとか関係なく」


 なら、伝染病とかはなさそうか。いくらなんでもある日突然、全ての人間が突如罹患するほどの病気があるとは思えない。それも種族をピンポイントに、だ。いや、もしかしたら獣人も罹っていたのかもしれない。獣人は最初から魔法を使えないから発覚しなかっただけ、というオチだ。

 ……いや、さすがに無理があるか。

 遺伝子についても、なあ。人間の遺伝子だけピンポイントでおかしくなるってのもないと思うし、流行り病以上に時間がかかるだろう。


 暗躍はどうだろう。


 例えば、ファンタジー作品の多くで、魔族は人間と敵対している。ハルギッテは裏表がなく、人間の俺にも物怖じせずに剣を見せてくれだの言ってくる始末だが、魔族全体が一枚岩ということもないだろう。やはりあり得そうなのは暗躍か。呪術とか……。


「先生、そろそろ例のアレ、お願いしたいっす……」


 一人で陰謀論にふけっていると、ハルギッテから催促される。結局、異分子である俺だ。魔族がどうとか関係なく、火の粉が振りかかるまでは静観しよう。やろうと思えば火魔法を人間にコピペしていく旅だってできるだろうが、そんな高尚なお題目を背負う聖人でもない。半径1メートル、手の届く範囲での平和を守っていくさ。

 それから、MP切れを起こすまで魔改造した火魔法を、今度は空ではなくちゃんと的に向けて撃たせた。命中率はそこそこといったところだが、ハルギッテはやりきった顔をしながら涎を垂らしてのびている。依存症になったと言われたら面倒だし起きる前に町から移動しようかな。さすがに失礼か。


「ご主人様。ずっと思っていましたが……」


 それまで後ろで控えていた千影が、一歩前に出た。ゆったりとした時間に横やりが入ったのだ。小言の一つぐらい言いたくなったのだろう。


「ハルギッテさんのように、ご主人様が先生として私に物を教えるというシチュエーションも、良いものだと思うのです」


 そうか。

 お前は真面目な顔して何を言っているんだ。


「いえ、以前『宿題忘れたでしょう、めっ』というのはやりましたが、眼鏡をかけたご主人様から『千影よぉ、お前はこんな簡単な三角関数の加法定理もわかんねぇでまともに進学できると思ってんのか? 小学校からやり直した方が良いんじゃないか? あ?』と壁ドン……いいえ、いっそ股ドンされながら責められてみるというのも中々……。そして、ある種の覚悟を決めた私に対して、本当に数学の授業をめちゃくちゃ丁寧にして欲しいのです! こう、上げて落とすといいますか!」


 ……千影は、段々と性癖が顕わになってきたよなあ。

 いいけど。

 股ドンって何だろう。


 千影の妄想力が止まらない訓練場。その入り口が、俄(にわ)かに騒がしくなる。金属がこすれ合う独特の音は、長時間フィールドやダンジョンに潜るため革鎧メインの冒険者ギルドではあまり聞きなれない。十人ほどだろうか。騎士風の、甲冑鎧の男たちが、くぐもった声で怒鳴りつけてきた。


「ここで火魔法をぶっ放(ぱな)している魔族がいると通報があった!  即刻名乗り出よ!」


 ……あれ、これハルギッテのことじゃね?

 訓練場だけど魔法の練習はしちゃまずかったのか?

 一番手前、一人だけ派手な装飾を付けた男が視線を方々にやる。隊長格だろうか。そいつはハルギッテに気づくと無造作に近づいた。彼女の角はやはり目立つ。

 当然、メイファさんが立ちふさがった。


「ギルド訓練場での魔法の行使は全く問題ないはず。ギルドと国は互助関係にありはしますが、これは明確な越権行為です。また、安全を考慮し、魔法使い用の敷地内でしか発動していません」


 ああ、どおりで。この辺りは訓練してるの俺たちしかいないなーと思ってたんだ。


「巨大な火炎球を空に飛ばしておいて何が安全を考慮だ! あれは人間への示威行為だろう! あれだけの火魔法を使えるのは、今や魔族しかいないのだからな!」

「火炎球は水や土魔法と違い、質量がありませんから空に打ちあげたところで慣性を失い墜落する、などということはありません! むしろ、遠目で見えるほど巨大な火魔法であるなら、制御に失敗したときのことを考慮し誰もいない空へ向ける方がよほど安全です!」

「制御に失敗したとき!? そのような魔法、最初から使わなければ良いではないか! 万一、上空をボラギノックスでも飛んでいればどう責任を取るというのだ!」

「自らの種族から火魔法が失われたからといってその怒りを他種族へ向けるのはお門違いではないですか? 三百五十年ほど前、火魔法の実験で死傷者合わせて六十人を出したのは人間だったはずですよ!」

「過去の失敗を引き合いに出すとは! 私は今脅かされる危機について話をしているのだ! 私はこの町を守る騎士としてだな!」


 売り言葉に買い言葉。目に見えるほど唾を飛ばす騎士にメイファさんの口調も強くなってくる。どうすんだこれ。


「やれやれ、なんの騒ぎだいこれは」


 一歩も譲らない二人とは対照的に、どこかのんびりとした声が喧噪に暮れる訓練場に響いた。見るからにくたびれた男が、受付嬢と連れ立ってやってきた。やる気のなさそうな風体だが、その眼光だけは鋭い。


「支部長! あなたの責任問題でもあるのですよ! 何故魔族が人の町でバカスカ魔法を使っているのです! こんな奴らいなくても、人の国は人だけでも十分守れます!」


 騎士の男が詰め寄ると、支部長と呼ばれた男はだるそうに手で騎士を扇いだ。まるでうるさい虫を払うかのように。


「そんなこと言われてもねえ。そういうのはギルド本部に嘆願書でもなんでも送ってくれや。俺は一介の支部長に過ぎないんだからよ。言うなればただの管理職であって、重要な案件での決定権なんてものは存在しない。俺の管轄はギルドに所属している馬鹿が馬鹿やらかさないよう見張るぐらいなんだよ。トップの意見に唯々諾々、犯罪さえ起こさないなら人間、エルフ、サハギンにドワーフ、魔族だって受け入れる。そういう方針である以上、俺から何も言うことはねえ。

 魔族が魔法を使ってる? 元気で結構! その魔法で一匹でも多くの魔獣をぶっ殺してくれよ! と背中を叩いてやりたいほどさ」

「こ……の、どこまで腐っているんだ、冒険者ギルドという体制は!」


 憤懣やるかたない、と騎士の男が支部長を掴みあげる。周りから悲鳴が上がるが、支部長は抵抗らしい抵抗もせず、ただ睨(ね)めつける。


「何をビビってんだよ、スケルツォ。こいつらは所詮ガキだ。いや、こいつらだけじゃない。冒険者ギルドにいる奴らは、どいつもこいつも言うこと聞かねえし我がまま放題のクソガキばっかりだ。

 やれ買い取り額が安いだの、早くギルドランクあげてくれだの。知るか! もっと上手く狩って来い! こっちは適正に処理してるんだよ! とまあ、怒鳴りたくなる毎日だ。そんなガキの一人もあやせないようで、どう町を守っていくつもりなんだ?

 魔法が未知だから排除する? そういうクソみたいな動機でこいつらを否定するようじゃ、お前もその程度のクソガキだっただけの話さ」

「何を……」


 一方的に有利な体勢の騎士はしかし、まるで背中に氷でも入れられたかのように震えあがった。見えているものとは全く逆の光景が、彼らの瞳には映っているのだろう。


「度量をあげろ。使えるものは使え。歯を食いしばって乗りこなしてみせろ。世界は人間だけで成り立っているわけじゃない。努々(ゆめゆめ)、忘れないことだな」

「……ちっ!」


 何も言い返せず、騎士は力任せに支部長を打ち捨てた。砂埃を巻き上げる支部長を一瞥だけして、他の騎士たちと連れ立って帰って行く。残された支部長は、服を払いながら何事もなかったかのように立ち上がった。


「全く、力だけは一丁前になっちゃって。僕も老けるわけさ。……それで? 君たちの方からも、一応話を聞かせてもらえるかな?」


 支部長は相変わらずだるそうな声で、俺たち四人へと向き直った。

少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。


感想・レビュー・ブクマ・ポイントは作者のやる気に直結します。よろしくお願いします。

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